附属竹早中学校としてのキャリア教育 (2004)

(竹中PTA会報,第86号(12)2004.12.20発行) 附属竹早中学校としてのキャリア教育   学校長  下條 隆嗣 昨今、新聞紙上で、「キャリア教育」という言葉や、学校におけるその実践例などの紹介もまま見られるようになってきた。「キャリア教育」は、学校において、児童生徒一人一人にふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てるという教育である。ここで、「キャリア」とは、「個々人が生涯にわたって行う様々な立場や役割の連鎖およびその過程における自己と働くこととの関係づけや価値づけの累積」(文科省)というのが一般的であろう。キャリア教育が問題視されるようになってきた背景には、少子高齢社会の到来、産業・経済の構造的変化とそれに伴う雇用の多様化・流動化等があり、就職・進学などの進路選択をめぐる環境の大きな変...

「学習意欲」と「目標」の持ち方 (2006)

(附属竹中生徒会誌「潮2006」) 「学習意欲」と「目標」の持ち方 校長  下條 隆嗣 近頃、教育関係者の間で「日本の子供達の学習意欲が減少しつつあるのではないか」という議論がある。また、最近、日本の企業の方から、「会社に入ってくる若者に対して企業が求める力についての近年の調査によると、最も強く求められる力は、基礎基本、創造性、やる気の三つである」ということを教えて頂いた。このように「やる気」(意欲)に関することが問題視されるような事態は、日本の将来に関わる根源的な問題であるので心配である。こうした事態の原因や克服の方法を考えたくなる。 昨年11月の全校集会でも少し触れたが、最近、意欲に関する研究をまとめた論文を見いだした。それは、米国のイリノイ大学のドウェックとハーバード大学のルゲットの二人によって20年程前に「心理学レビ...

「小学校理科教育法」

「小学校理科教育法」 東京学芸大学理科教育検討会編(編集代表:下條隆嗣),学術図書出版社,2002.   私が1984年に物理学教室から理科教育教室へ移籍してすぐ,講義が押し寄せてきた。教員免許上,全学生が対象だから授業負担枠は多い。ところが,教科書がない。当時の理科教育の大学生用の教科書は,授業案や観察・実験法の紹介,あるいは理科教育の研究の紹介を主にするもので,教師の立場に立って,理科教育について授業に密着する体系的な内容のものは見当たらなかった。理科教育に移って,講義を担当する段になって,そのことに驚いていた。 自分なりに講義ノートを作っていたが,移籍から8年目の時,出版社から私に小学校理科教育法の教科書の執筆の話がきた。そこで,適切な教科書が出版されていない現状を鑑みて共同執筆にして出版を急いだほうがよいと...

「カオス力学入門-古典力学からカオス力学へ-」

シミュレーション物理学6 「カオスカ学入門-古典力学からカオス力学へ-」, 近代科学社, 下條隆嗣著,近代科学社,1992.   若いころ,プラズマの研究のなかで,カオスに気づいて少しずつ勉強して書いた本である。初版から今年までにすでに28年たっているが,いまだに販売されているようでうれしい。初版の出版当時,大きな書店には,この本が何冊も積まれていたことを覚えている。また,友人の教えてくれたところによると,この本の書評が3つでていたとのことである。私は残念ながら一つも見ていない。 一時期,レーザーや荷電粒子ビームによってプラズマ中に生起するラングミュアー波(縦波)の3波相互作用の研究をしていた。波のcorrelationが,入射荷電粒子に対する阻止能に影響することを示した研究成果は,イタリアの物理学会誌に投稿した【...

パソコンによる断熱不変量のシミュレーション:単振子の引き上げ」における糸の長さの関数形

パソコンによる断熱不変量のシミュレーション:単振子の引き上げ」における糸の長さの関数形 単振子をはじめゆっくり,次第に早く,最後はまたゆっくりと引き上げると,近似的に保存される量「断熱不変量」がある。これをシミュレーションするプログラムを昔,開発した。断熱不変量はカオス力学を学ぶ上で重要な概念の一つであるが,その意義やこのプログラムについては,拙著(下記文献1))や筆者らの論文(下記文献2))を参照されたい。 このプログラムについては,私の著書「カオス力学入門」にも紹介してある。この本はまだ販売されているようであるし,また,元の論文(下記文献1)もネットで公開されているようだ。今でもこれらの文献を見て下さる方がおられるようなので,振り子の糸の長さの時間変化を与える関数形などについて,一言書いておきたい。 それは,筆者が若いこ...

「プラズマ物理学の基礎」

「プラズマ物理学の基礎」  V.E.ゴラント,A.P.ジリンスキー,I.E.サハロフ著,下條隆嗣・田井正博(共訳),現代工学社,1986. 本訳書の出版が企画された当時, ロシア(旧ソ連邦)では,プラズマ物理学の研究が大きな進展を見せていた。磁場閉じ込め方式の核融合実験炉トカマクは当時世界の最先端であったし,理論面でもLeontovich の編集になる“Reviews of Plasma Physics”というシリーズものの著作や,Kadomtsev の“Plasma Turbulence”などの本が次々に刊行されていた。これらは,次々にロシア語から英訳されていた。 ゴラントらの表題の原著は,プラズマ中の波動に着目して書かれたKadomtsev の本とは対照的に,プラズマ中の粒子衝突を前面に出したロシア語の本である。「プラズ...