慢性腎臓病闘病記【5】-排塩サプリの貧血への影響
<2021.04.21記>
5-1. 排塩サプリの貧血への影響, 5-2. CKDと牛乳-牛乳が飲みたくて困るのはなぜだろう? 5-3. 透析後の疲労軽減の豆工夫
5-1. 排塩サプリの貧血への影響
先に書いたように,私は排塩サプリ「Del Salt」を2020年11/17から服用し始めたが,その効果については,「慢性腎臓病闘病記【4】の4-4 排塩サプリの効果」の中で,平均1日3錠の服用でも,飲水量の減少や血圧の安定など良い効果が得られたことを述べた。しかし,排塩サプリの主成分であるアルギン酸が鉄分と結びつく傾向があるために,貧血を進める心配もあった。そこで,今回のブログでは,同サプリ服用の前後の貧血状況についてのデータから,排塩サプリの貧血への影響についてみてゆきたい。
貧血状況を,ヘマトクリット,赤血球数,血色素量(ヘモグロビン濃度)の3つの指標でみてゆく。ヘマトクリット値は血液中に赤血球が占める割合(%) のことである。これら3指標は,透析クリニックで2週間ごとの血液検査によって調べられているが,筆者の場合,これら3指標とも基準値より低くなっており,腎性貧血であることがわかる。以下に3指標の変遷(2018年3月20日~2021年4月13日)を図に示す。
図5-1 赤血球数の変遷 横軸は週,縦軸は赤血球数(単位は10^4/μL,
記号^は冪を表す。10の4乗)。基準値は430~570。排塩サプリ
服用開始日は横軸の139週目で▲印をつけた点である。
図5-2 ヘマトクリットの変遷 横軸は週,縦軸はヘマトクリット値(単位は%)。
基準値は39.7~52.4。排塩サプリ服用開始日は横軸の139週目で▲印をつけた
点 である。排塩サプリ服用開始日は横軸の139週目で▲印をつけた点である。
図5-3 血色素量の変遷 横軸は週,縦軸は血色素量(単位はg/dL)。基準値は
13.5~17.5。排塩サプリ服用開始日は横軸の139週目で▲印をつけた点で
ある。
図5-1~図5-3において,これらの指標の値は波打っているが,これらの指標の値が下がると,造血ホルモン(エリスロポイエチン)や造血剤(鉄剤)の注射を受けるので,その結果,指標の値が増加に転じるからである。そして,何週かが経過すると,今度は下降に転じる。この繰り返しである。
これらの図から,排塩サプリ服用後(横軸の▲印以降)のデータ数は,服用前のデータに比較して十分多いとはいえないが,いずれの指標も服用後の期間においては全体的にわずかながら上向いていて,貧血は排塩サプリ服用前より悪化していないようであることがわかる。さらに長期間のモニターが必要であるが,これまでのところ,1日平均3錠の服用では,排塩サプリの貧血への影響は出ていないといえる。安心して排塩サプリを服用できる。
5-2.CKDと牛乳-牛乳が飲みたくて困るのはなぜだろう?
透析のある日は,自宅から透析クリニックまで往路のみ毎回歩くが。その時間も20分から25分と少し長くなり,歩きが遅くなった。新型コロナの蔓延で外出を控え,脚力が弱ってきたのだ。その改善のために,春から少し散歩を増やすことにした。散歩のあと,無性に牛乳を飲みたくなることに気づいた。
あるとき,歯科医で診察の順番を待つ間,『雑誌「老けない体をつくる生活習慣」,株式会社宝島社,2016年10/5,倉田美奈子・他編集』を何気なくみていたら,驚くべき記事を目にした。それには,「カルシウムが体内で悪玉化!? 牛乳は飲むほどに骨を破壊する」という見出しがついていた。
記事は,『血中にカルシウムが過剰になると,カルシウムの利用システムに異常が起こり,カルシウムが骨から血中に溶出する「脱灰」(骨吸収)と,その逆にカルシウムが血中から骨に沈着する「再石灰化」(骨形成)という二つのプロセスのバランスが崩れてしまう。「脱灰」の結果,カルシウムは筋肉,心臓,腎臓,脳などへ移動する。このように,「牛乳は骨を弱くして細胞環境を悪化させる」』という内容である。
牛乳に関しては,栄養成分がバランスよく,長寿や健康に良いといいうネットの記事も多くみられるので,私は牛乳がよくないというこの記事をみて正直驚いた。(もっとも,世の中には,いろいろなことについて,正反対の意見がみられることが多いが・・・)
前にも書いたが,人工透析でダイアライザーによって,血中のカルシウムは自動的に適正範囲に収まるようになっているので,慢性腎臓病患者は特にカルシウムの豊富な食品を意識的に摂る必要もない。しかも牛乳はリンの値が高いので,牛乳を飲んだ後の透析クリニックの血液検査では,すぐリンの値が正常範囲を超えてしまい,管理栄養士さんから,飲まないように注意を受ける。したがって,慢性腎臓病患者は牛乳を飲まないに越したことはない。
しかし,問題は,牛乳が無性にたくさん飲みたくて困るときがあることだ。600mL位飲んでしまうときもある。特に,散歩の後や入浴後に飲みたくなる。温泉や浴場にも自動販売機の中に牛乳が置いてあり,入浴後に飲んでいる方が多いようだ。
牛乳はリンも多いが,タンパク質とカルシウムが豊富だ。およそコップ1杯の牛乳(普通牛乳)200g(約194mL)のリン量は186mg,カルシウム量は220mg,蛋白量は6.6gである(「食品成分表2013 資料編」,女子栄養大学出版部, 2013)。もっとも,牛乳の吸収率は成人で20~30%である(健康長寿ネット,カルシウムの働きと1日の摂取量,公益財団法人 長寿科学振興財団,2020/5/22)ので,コップ1杯の牛乳で,リンは約47mg,カルシウムは約55mg,蛋白質は約1.7gの摂取になるのであろう。ちなみに,ご飯1膳(150g)には蛋白質が3.8g,リンが44mg含まれているので(吸収率は98%,カルシウムはほとんど含まれていない),コップ1杯の牛乳の蛋白質やリンの量は,ご飯1膳のそれらに比較して,大きな差はない(タンパク質は牛乳1杯よりご飯1膳の方が倍くらい摂取できる)。牛乳はやはりカルシウムが圧倒的に多い食品であることがわかる。下で述べるが,牛乳の蛋白質の質に注目すべきではなかろうか。
上に述べた雑誌の記事には,牛乳の量についての記述はない。どの程度飲めば,「脱灰」と「再石灰化」のバランスが崩れるのだろうか? 参照した文献も紹介されていないので確かめようがないが,個人によってカルシウムの不足量も異なるであろう。牛乳の1日の摂取量は,70歳以上で 700mgが望ましい(健康長寿ネット,カルシウムの働きと1日の摂取量,公益財団法人 長寿科学振興財団,2020/5/22)とされているが,非透析日で,しかも長い散歩などの後に,どのくらい体内のカルシウムが減るのであろうか?
管理栄養士さんのお話によると,小さい頃から牛乳やコーラをよく飲む習慣のある人は,脳がその嗜好を覚えているので飲みたくなるということもあるそうだ。牛乳が飲みたくなるのはそうした側面もあるのかもしれない。
一方,のどの渇きによることもあるが,散歩や風呂(一種の運動)などによる筋肉(脚や心臓の筋肉)へのダメージを修復するために,良質な蛋白質が豊富な牛乳が飲みたくなるのではないだろうか。
「牛乳は多種のビタミンやミネラルを含み,身体の構成要素であるアミノ酸の含有比が理想的で,激しい運動による疲労の回復を早める効果がある」という研究もある(ネット記事:「長期的筋疲労の回復速度に及ぼす牛乳乳製品接種の効果」,学術連合の研究データベース,1995年,石井直方)。
ただ,4時間~4時間半の透析によって心臓の筋肉はかなり疲れていると思うが,透析後はそんなに牛乳を飲みたいと思うことがないのが不思議である。透析直後はお腹が猛烈にすくので,体は牛乳よりも,とにかくカロリーのある食べ物を一刻も早く欲するためであろうか。
上に述べたように,なぜ時々牛乳を飲みたくなるか,自分なりに推測してみたが,その理由はまだ謎である。ともかく,牛乳が飲みたいという誘惑に負けた時は,牛乳と共に透析クリニックで処方されたリンの吸着剤も併せて飲んで,管理栄養士さんの叱責からまぬかれるようにしている。
5-3. 透析後の疲労軽減の豆工夫
透析クリニックまで往路は徒歩で20数分かかるが,クリニックに到着すると喉がかわくことが時々ある。あるとき,透析に入る前に,水の代わりに,ビタミンB1,B2,B6が入っている滋養強壮・栄養補給のための栄養ドリンク剤を1本飲んだところ,透析後に,大分疲労感が減るように思われた。この経験に基づいて,それ以降,透析後の疲労軽減のちょっとした工夫として,栄養ドリンク剤を1本必ず飲むようにしている。こうしてみると,牛乳が飲みたくなるのは,やはりカルシウム不足というよりも,ビタミンなどの栄養素を体が欲するためであるかも知れない。
(2021.04.21記)