慢性腎臓病闘病記【11】-人工透析治療6年が経過して:治療生活のまとめ (2024.03.29記)
2024年3月,人工透析生活も7年目に入った。ここらへんで一度,これまでの透析生活をまとめておきたい。
透析クリニックで定期的に受ける血液検査と自分流に記録してきた食事や飲水量・血圧・体重などのデータをもとに,透析開始頃の2018年3月中旬から2024年3月中旬までのほぼ6年間における体調の変遷などをおおまかに見たい。
11-1 クレアチニンと尿素窒素
図11-1 クレアチニンおよび尿素窒素の値の推移
図11-1は,血液検査から得られたクレアチニンCrおよび尿素窒素の値の推移を,透析開始頃の2018年3/6(火)から2024年3/19(火)までのほぼ6年間において,ほぼ4週間毎の血液検査に合わせて,ほぼ4週間毎にプロットしたものである。血液検査のデータは,ところどころ飛び飛びであるが,計74回分である。横軸は2024年3/6(火)を始点として,経過週数を表す。クレアチニンのグラフの縦軸はクレアチニンCr の値(mg/dl)を,尿素窒素のグラフの縦軸は尿素窒素の値(mg/dl)を表す。
クレアチニンCrは,筋肉を動かしてエネルギーを使うと発生する蛋白などの最終代謝産物で,腎臓に機能障害あると血中に蓄積し,腎機能の低下を知る目安の一つである。基準値0.61~1.04(mg/dL)とされている。図11-1から,筆者の場合,最近は11(mg/dL)前後で基準値の14倍程度となっている。 クレアチニンCrの値は,透析開始頃から80週頃までは,増加傾向にあり,その後ゆっくり減少傾向になり,最近ではほぼ一定になっている。初期の増加傾向については,過去の本ブログ(慢性腎臓病闘病記【2】,同【3】)に述べたように,人工透析生活に入る前の透析食から入った後の通常食へ移行後,しばらくの間,食欲が旺盛になった時期があった。また,透析クリニックまで往復徒歩で通院(現在は,往路は徒歩,帰路はバス)したので,多少,運動の効果があったのかも知れない。いずれにしても,この増加傾向の原因はよくわからない。
尿素窒素BUNは,血液中の尿素に含まれる窒素成分で,蛋白質が利用された後にできる残りかすである。基準値は8.0~20.0(mg/dL) であり,透析患者の場合は,「70(mg/dL)以下」が望ましいとされている。
図11-1の尿素窒素のグラフに見られるように,筆者の尿素窒素の値は,80(mg/dL)前後から75(mg/dL)前後へゆっくり下降気味であるが,基準値の10倍程度ある。この減少傾向は,年を重ねるにしたがって食が細くなり,摂取蛋白量が少しずつ減っていることによると思われる。
11-2 カリウムとリン
図11-2は,血液検査から得られたカリウムとリンの値の推移を,透析開始頃の2018年3/6(火)から2024年3/19(火)までほぼ6年間において,ほぼ2週間毎の血液検査に合わせて,ほぼ2週間毎にプロットしたものである。血液検査においては,カリウムとリンは2週間毎,クレアチニンと尿素窒素はほぼ4週間ごとに検査された。血液検査のデータは,ところどころ飛び飛びであるが,ほぼ2週間おき,計145回分である。
カリウムとリンのグラフにおいて,横軸はクレアチニンや尿素窒素のグラフと同様に,2024年3/6(火)を始点として,経過週数を表す。カリウムのグラフの縦軸はカリウムの値(mg/dl)を,尿素窒素のグラフの縦軸は尿素窒素の値(mg/dl)を表す。
図11-2 カリウムおよびリンの値の推移
カリウムの基準値は3.5~5.0(mEq/L)とされている。透析患者の場合,4.0~5.5(mEq/L)が望ましく,6.0(mEq/L)を超えると不整脈・心停止が発生するので危険とされている。カリウムについては,筆者の場合,カリウム吸着剤「ケーキサレート3.27g(有効成分2.5g)」を服用してカリウムの値をコントロールしている。図11-2のカリウムのグラフに示されているように,筆者の場合,カリウムは4.5~6.5(mEq/L)程度に抑えられている。カリウムの場合は,基準値より多少高めになっても大丈夫との医師の先生のお話であった。しかし6.0(mEq/L)以下が望ましいとされている。筆者の場合は,ほぼ基準値に収まっている。
カリウムのコントロールで難しいのは,カリウム吸着剤ケーキサレートの服用による便秘対策だ。ケーキサレートを服用すると便秘がひどくなる。最近に至るまで,管理栄養士さんと一緒に,便秘が少しでも軽くなるように,できるだけケーキサレートの服用量を下げるべく,数年にわたって適正な服用量をさぐってきた。
最近では,筆者の場合,透析が2日間空く日・月曜日に,ぎりぎり0.5袋ずつ,(1週に1袋)服用とした。これでは,少し足りず,カリウム値は6を超えるときもたまにある。筆者の場合,週半ばの水・木曜日当たりに強い便秘の日が多い。これは,日・月曜日にケーキサレートを服用するためであろう。このようなときには,市販の便秘薬コーラックを使用している。最近では,ケーキサレートの代わりに,小さなカップ入りのコンニャク・ゼリーを毎日,1~2ヶ(25~50g)食べるようにしている。コンニャクは食物繊維なので,便通が良くなる。
透析患者は,腎機能が低下しているので,余分の無機リンが尿から排出されず,血中のリンの濃度が高くなる「高リン血症」であるといわれている。これにより,骨がもろくなり,また動脈硬化が起きやすくなる。また,「高リン血症」は,副甲状腺の機能とも関連している。無機リンは,ほとんどあらゆるものに含まれているので,リン摂取量のコントロールも厄介である。
図11-2のリンのグラフに示されているように,筆者の場合,無機リンの値は,3.3~7.5(mg/dL)の間を行き来しており,平均して4.0(mg/dL)くらいでほぼ一定である。リンの基準値は2.5~4.5(mg/dL)で,その中央値は3.5(mg/dL)であるので,おおむね基準値内に収まっている。透析患者の場合は,3.5~6.0(mg/dL)が望ましいそうである。
このグラフにおいて,220週目(横軸の110当たり)から,リンの値の振れ幅がかなり減少して,リンのコントロールがうまくゆきはじめたことがわかる。それまでは,牛乳を多量に飲んだときとか食事内容に応じて,リン吸着剤を2,3錠飲んだり飲まなかったり,服用がランダムであった。220週目あたりから,リン摂取量の振れ幅が小さくなってきた。この頃から,リン吸着剤の服用は,朝・昼・夕1錠服用を基本として,たまにリンの多い食品を多めに食べたときは1錠追加したりして服用に色をつけるようにしている。その結果がこれである。リンについては,最近はほぼコントロールできているといえる。
11-3 貧血と血圧
赤血球数で貧血の状況をみると,赤血球数の基準値は430-570 (10^4/μL)であるが,筆者の場合は,310 (10^4/μL)前後でほぼ一定に推移している。基準値の中間値が500 (10^4/μL)であるから,おおむね赤血球は基準値の62%程度しかなく,腎性貧血である。造血注射エスプロポエチンを受けている。
2024年3/10(日)~3/16(土)までの1週間分の1日の血圧変化を図11-3(a)および図11-3(b)に示す。赤線は収縮時の最高血圧,青線は,拡張時の最低血圧,橙色は脈拍を表している。
図11-3(a) 1週間分の日内血圧変化(非透析日)
図11-3(b) 1週間分の日内血圧変化(透析日)
図11-3(a),(b)から明らかなように,非透析日にはさほどでもないが,透析日の火・木・土曜日には,血圧が朝から夕へ急速に下がる。これは透析によって体内から水分が抜かれるために起こる現象である。なお,空腹を抑えるために,透析中にお菓子を少し食べているが,これも量を多く食べると胃に血液が集まるので,血圧低下の原因になる。筆者の場合は,透析中に毎回,ビスケット数枚など,だいたい50gくらいのお菓子を食べている。透析中の食事はせいぜい100g以下にすべきだ。透析後に血圧が下がりすぎると,帰路の途中で倒れることがあって危険なので,透析開始から2時間後に血圧を上げる薬を飲む。こうすると帰宅時には収縮時の最高血圧が150以上になって安全になる。それでも少しふらふらして徒歩での帰宅は危険なので,バスで帰宅している。食事を含む遠出の際も,食後に血圧が下がって危険なので,できるだけ付き添いの人と一緒に出掛けるようにしている。
また,非透析日では,日がたつにつれて,体内の水分量が増えるので,血圧は高くなる。早朝高血圧もまだ治っていないようである。
11-4 食事・栄養,体重
管理栄養士さんからも,アルブミンなどの値を参考にして,栄養面は問題ないといわれており,また食欲もある。タンパク質は,旅行などの多食・多飲の場合を除く普通の日では,1日当たり60~70mgを保っている。中性脂肪も問題ない。体重も60kg前後でほとんど変化がない。BMIも正常値内である。
11-5 塩分と飲水量,尿
カリウムやリンのコントロールとともに,塩分のコントロールにも十分気をつかっている。
筆者は,以前のブログで述べたが(筆者:慢性腎臓病闘病記【4】【5】【7】),排塩サプリ(デルソル)を2020年11月中旬からずっと服用してきた。服用期間は,かれこれ3年半近くになる。服用量は,通常は朝0錠,昼1錠,夕2錠であるが,寿司を食した時は4錠,ラーメンを食した時は3錠など,多めにしている。
排塩サプリの効果については,以前のブログ(筆者:慢性腎臓病闘病記【7】)で述べたが,「塩分感受性が高まったが,飲水量はほとんど従来通り(1日平均1L強)」というものであった。一見,排塩サプリ服用の効果が無いように思われるが,塩分が高めの外食をとっていても,その増えた塩分の一部分は排塩サプリで帳消しになっているために,飲水量の変化はほとんど無いと考えられる。すなわち,排塩サプリにより,腎臓をより痛めることなしに,食事の多彩化によって,人生の楽しみを増やしているということであろうと思う。印象としては,排塩サプリの服用によって,体内から余分な塩分が排出され,最低限必要な塩分量に近い値の塩分が体内に保持されるようになったように感じられる。
もちろん,排塩サプリを利用しつつも,いつも塩分の摂取を減らすように気をつけている。排塩サプリを服用するようになってからは,「塩分感受性」が鋭くなって,プラスチックの袋に入っている冷凍食品の麵などは,スープの素を全部入れると,しょっぱすぎると感じるようになった。そこで最近は,麵とスープが別になっているものを利用している。
例えば,袋入りの冷凍食品の「ちゃんぽん」を例にとると,麵とつゆは分かれていて,麵の塩分は1.5g,つゆの塩分は5.5gで,全体で7.0gもある。しかし,つゆを半分だけ利用することにすれば,塩分は全体で3.8gに収まる。こうすれば,スープをかなり飲んでも摂取する塩分量はかなり下がる。こうした積み重ねがよいと思う。
飲水量については,透析2日間空けや旅行の翌日の透析前体重の増加が3.5kg超えないように食事量特に飲水量には注意している。しかし,旅行の時はこれを守るのは難しい。
尿については,透析を始めたころは,尿は1日に10~50mLほど出ていたが,少しずつ尿量が減るようになり,ついに透析開始から4年目の2022年の4月以降は尿量が0ないしは数滴となった。 これは,透析開始時には少しは残っていた腎臓の尿をつくる糸球体がほとんど全滅したことを意味するのではないだろうか。
11-6 シャントのつまりと穿刺
2018年3/19に左腕に人工透析のためのシャントを設置した。その後,同年10/22にシャント近傍の血管が細くなって血流が悪くなり,透析ができなくなるとのことで,血管拡張手術を受けた。
2019年6/19,2020年10/14にも,同様の手術を受けた。ほぼ3ヶ月ごとの血流検査は現在も継続しているが,2020年10/14の手術以降,血流は比較的安定していて,この種の手術は受けていない。ただし,シャント付近の穿刺部分は,「たこ」のように固くなってきて,看護士さんが時々穿刺に苦労なさる時がある。
11-7 サプリ
サプリは,排塩サプリの「デルソル」,NO(酸化窒素)により血管を拡張する「しなやかケア 年齢ぺプチド」,中性脂肪を減らす「ラクトフェリン」,動脈硬化予防や視力改善のためのビタミン剤などを服用している。
11-8 生活
1週7日の内,3日は透析日である。透析日は透析後もぐったりしている。午後2時半か3時ころ帰宅してのち,横7時か8時ころまで横になっている。その日は,TVを見ること位しかできない。その他の日は,眼科(アレルギー,白内障),整形外科(腰痛),歯科・口腔外科(定期検査,他),シャントの定期的確認(3ヶ月毎)など,病院へ行く日が月に数日ある。体のいろいろな故障が次から次にでてくる。人工透析とそれ以外を合わせて体のメンテナンスのために半月以上は病院通いである。残りが本来の自分の時間といえるが,本当に「自由時間が少ないなあ」と思う。
この残りの本来の自分の時間は,食事,買い物,庭作業,理髪,墓参,たまに1泊旅行など日常生活に費やす。何かまとまった学習や研究などに打ち込む時間はない。もっともそのような意欲も無くなった。最近,特に断捨離を進めようとしているが,時間的にも気分的にもなかなか進まない。
最近,足も弱ってきて,少し動くと疲れる。2階へ上がるのもつらくなってきた。肉体的にも衰えが進んできたと思う。そのため,健康維持のため,少しでも歩くように心がけ,庭の手入れなど体を動かすようにしている。また,もの忘れもひどくなってきた。先日もユゥチューブ・チャンネルでベートーベンのピアノ・コンチェルトNo.5「皇帝」を聞こうとしたが,数ヶ月前何度も聞いていたのに,好きなピアニストのKrystian Zimmermanの名前がどうしても出てこず,調べるのに手こずったが,このことに自分なりにショックを受けた。やはり,「認知面も肉体同様少しずつ弱ってきているのだなあ」と実感する。できるだけメモをとるように心掛けねばならない。
11-9 まとめ
クレアチニンや尿素窒素は共に基準値の10倍以上で,しかも尿は全く出なくなり,腎臓は少しずつ弱ってきているものの,透析開始頃と大きくは変わらぬ状況にあるのではないかと自分流で思っている。6年も経過したのに,大きな変化が無いことには驚きを禁じ得ない。これは人工透析のおかげであると思う。
上に見てきたように,人工透析生活は,ほぼ順調に推移しているといえる。しかし,人工透析という激しい「運動」を課されている心臓がいつまでもつかの方が心配になってきた。 (2024年3/29記)