慢性腎臓病闘病記【3】-回復へのかすかな期待

<2020/09.21記>

3-1. 新型コロナ蔓延下の透析生活,  3-2.  回復へのかすかな希望-クレアチニン値と尿素窒素値の改善,   3-3. 新しい治療研究の動き-2つのニュース,  3-4.  血液検査結果(Cr, BUN, 赤血球)の変遷-データの追加,  

3-1. 新型コロナ蔓延下の透析生活

 2020年4月以降,日本でも新型コロナが蔓延している。これに対応して2020年4月以降,筆者が通っている透析病院でも,いくつかの対応がなされた。

まず,患者サイドとしては,透析室に入る前に「入念な手洗い」を実行すること,待合室では会話を控えること,また,透析室内ではマスクを着用することになった。スタッフは以前よりマスクを着用しているが,患者もマスクを着用することになった。透析中も着用する。クリニック・サイドとしては,時々窓を開け放して換気したり,エレベータ内の手すり,ベッドの机や取っ手など患者が触れそうなところは,1日に何度も消毒する。また,コロナ患者やコロナ患者と思しき患者の透析に備えて,広い病室の一部の区画を仕切って特別の病室を造ったりした。

新型コロナは,初期の症状がインフルエンザの症状と似ていることから,冬場の予防が問題にされているが,政府の方針で65歳以上の高齢者は10月に早めにインフルエンザの予防注射をうつことになっているので,10月には実施されるであろう。

この期間,生活は,日帰りや1泊旅行,外出や外食もできるだけ避けた。ストレスがたまり,普段運動していたわけではないが,体を動かす機会が減って体調はなんとなく悪かった。

3-2. 回復へのかすかな希望-クレアチニン値と尿素窒素値の改善

私のブログ「慢性腎臓病闘病記【1】」,「慢性腎臓病闘病記【2】」で述べた通り,2018年3月6日から私は立花クリニックに通院するようになって人工透析生活に入った。

私の場合,血液検査の結果でいつも非常に悪い値がでている検査項目は,赤血球数(腎性貧血)やクレアチニン(Cr)および血液尿素窒素(BUN)である。立花クリニックでは,クレアチニンと血液尿素窒素の検査を含む血液検査は,年末・年始や真夏を除き4週間おきに行われている。年末・年始や真夏では,5週間や6週間おきである。

私のブログ「慢性腎臓病闘病記【2】-人工透析生活の実際,2-11.透析期間内の血液検査結果の変遷」の中で,「透析生活に入ってから,尿素窒素BUNはほぼ一定しているが,クレアチニンCrの値は少しずつ悪化しているようで,これは老化によるものであろう」という意味のことを述べた。これは,2018年3/6から2019年10月までの約1年半の間のデータを記した表から目の子で得た結果であった。

しかし,2019年10月を超えて,2018年3/20~2020年8/4までの約2年半の間のクレアチニンCrと血液尿素窒素BUNのデータをグラフ化してみたところ,おもしろい結果が得られた。そのグラフが図3-1および図3-2である。

 図3-1はクレアチニン値の変遷を示したグラフ,図3-2は血液尿素窒素値の変遷を示したグラフである。2つのグラフのデータはほとんど4週間おきに示されている。これらのグラフでは,長期的な傾向がよくわかるように,縦軸を拡大してあるが,実際はわずかな変化である。傾向を見るために,近似曲線を破線で重ねて描いてある。

2018年3/6以前にも,2/15に末期腎不全・うっ血性心不全で入院し,3/3に退院するまでの17日間に計8回の人工透析を受けたが,これらの図にはその際のデータは含まれていない。これらの図は,それ以降の立花クリニックで透析生活を始めてからのデータを表示したものである。

     図3-1 クレアチニンCrの推移 〔2018年3/20~2020年9/15までの約2年半の間,

基準値は0.61~1.04(mg/dL)〕。横軸は2018年3/6を起点とした経過した

週数を表す。縦軸はクレアチニンの値(単位はmg/dL)を表す。Crの値の

ピークは2019年8/13である。

 

図3-1のグラフからは,クレアチニンCrの値は透析生活に入るとゆるやかではあるが徐々に増加したのち下降し始めている。ピークは透析生活開始後ほぼ1年経過した約56週目の2019年8/13である。このグラフの2020年8/4の最後のデータは,透析生活に入った際のCrの値に迄まだ下がってはいないものの,次第にその値に近づきつつあることがわかる。

     図3-2 血液尿素窒素BUNの推移〔2018年3/20~2020年9/15までの約2年半の間,

基準値は8.0~20.0(mg/dL)〕。横軸は2018年3/6を起点とした経過した

週数を表す。縦軸は血液尿素窒素の値(単位はmg/dL)を表す。

一方,図3-2のグラフからは,血液尿素窒素BUNの値は当初から若干の低下傾向がみられる。

これら2つの図のCrとBUNの値の推移から,透析の結果として,腎機能が若干改善し始めているのかもしれないと思われる。BUNの値が当初から減少しているのに,なぜCrの値が一時上昇し,その後減少に転じたのか,その理由はわからない。いずれにせよ,2019年8月からは,腎機能は改善傾向にあるのかもしれない。

もし腎機能が改善しているのであれば,腎性貧血も多少の改善がみられるはずである。事実,赤血球の変遷を見ると図3-3のようになって,最近は若干改善傾向にある。この赤血球数は,造血ホルモンであるエリスロポエチンの定期的な投与を受けている状況下での値である。それを受けていなければずっと低い値になっていたはずだ。

     図3-3 赤血球数の推移 〔2018年3/20~2020年9/15までの約2年半の間,

基準値は430~570 (10000/μL)〕。横軸は2018年3/6を起点とした

経過した週数を表す。縦軸は赤血球数(単位は10000/μL)を表す。

ただ,腎機能が改善傾向にあれば尿量も増えるであろうが,Crがピークを迎えた2019年8/13の前後の期間で尿量にほとんど変化はないし,それはむしろ減り気味である。また,前後の期間で運動量もほとんど一定で,運動量がCrに影響したとは考えづらい。透析生活に入ってからの運動は,週3回透析クリニックへ往路のみ20分間歩くこと,家での日常の動作,春の軽いハイキング(数回),および田舎で少し激しい草取りや竹切りを年に数回行うなどが毎年続いていて,大きく変化してはいない。したがって,この傾向は,むしろ食事の影響などが強いのかもしれない。

ブログ「慢性腎臓病闘病記【2】-人工透析生活の実際」に述べたが,透析生活に入ってから,その前の2年間の透析食生活から解放され,なにを食べてもおいしく,どんどん食べて太った。蛋白質の摂取量も多くなっていた。Crの値がピークを示した2019年8月頃からは,そうした飢餓感も消え,食事は量も若干減り,また質的にもあっさりしたものが多くなってきたと思う(特に昼食はパン食が多くなった)。体重増加も同年9月からは一段落し,多少減少気味になった。こうしたことが,体重減少→血圧下降→腎臓への血流の増加など間接的に影響して,Crの値が減少に転じたのかもしれない(しろうと考えであるが)。

また,この期間における月間摂取蛋白量(平均)の変遷をみてみると,表3-1のようになる(表1では,2018年9月~2019年6月までのデータは,うっかり消失してしまった)。摂取蛋白量平均の6ヶ月平均の推移をみてみると,少しずつ減少していることがわかる。こうしたことが,BUNの減少傾向の変化の要因かもしれない。

             表3-1 摂取蛋白量の推移

クレアチニンCrや血液尿素窒素BUNの値が減少傾向にあるというこれらの変化の要因ははっきりしないが,腎機能が少しずつ回復傾向にあることはうれしいことだ。

 図3-2から,BUNの値は,近似曲線でみると,この107週(27回の検査)で約89から約78まで11程度減少している。1週間に0.103,1ヶ月に約0.41,1年に換算すると約5.4の減少である。1年に6%程度の減少である。この低下傾向が,これからも続くかどうかはわからないが,もしBUNの低下が今後も続き,また低下速度が現在と変わらないと仮定すると,BUNの値が90から正常範囲の上限20まで減少するのは,70÷5.4=13.0で,約13年かかる。2020年8月から数えると,2033年8月である。そのころ,私の年齢は92歳である。これは男性の近年の平均寿命81.41歳(2019年の平均寿命,厚生労働省)を11年程度も超えているので,生きているかどうかわからない。つまるところ,一生,透析生活を送ることになりそうだ。

Crの値もBUNの値もさらに低下してほしい。その低下速度も加速してほしいものである。そのため,摂取する蛋白質量はこれまで,表3-1に示されているように,1日当たり60gを超えていたが,2020年9月中旬頃から摂取蛋白質量を少し減らすようにし始めた。摂取蛋白量の許容範囲は,筆者の場合(BMI=23, 体重60kg),ほぼ54~72mg/日である(CKDステージによる食事摂取基準〔透析〕,日本透析学会ガイドライン,BMI=22で計算されているが,この基準を適用する)であるので,1日当たりの蛋白質摂取量を,この許容範囲の下限の54gに近づけるように努力することにした。今後の推移を見守りたい。

今後,図3-1図3-2および図3-3のグラフにほぼ4週間おきに実施される血液検査の結果のCr,BUNおよび赤血球数の値のデータを追加してゆきたい。それらのグラフは,今後,以下(38節)の図3-4図3-5および図3-6に示す。

腎機能が多少でも回復すれば,週3回の透析が2回になったり,あるいは透析時間が4時間あるいは4時間半から3時間程度に短縮される可能性もあり,生活の質Quality of Life は上がることになる。そこまで至らなくとも,例えば少し長く歩いても疲れにくくなるなど,少しでも体調がよくなれば,それだけでもありがたい。徒歩で疲れるまでの時間は,最近は多少良くはなってきたが,現在でも,始めは勢いよく歩き始めるものの,7~8分すると疲れてきて歩くペースが落ちてくる。こうした状態が改善されればと思う。

また,将来,幹細胞治療などが可能になれば,腎機能のさらなる回復が可能かもしれない。是非そうなってほしいものである。そうすれば,ハイキングや1泊以上の旅行にいけるので,Quality of Life は格段に上がる。

【追記】後日,管理栄養士さんから伺った話であるが,透析患者の場合,クレアチニンの減少は筋肉の減少によることもあるので,必ずしも良いことではないようである。

3-3 新しい治療研究の動き-2つのニュース

 最近,将来,腎臓病の治療に結び付くと思われる新しい研究のニュースが2件あった。

一つは,「 腎臓の基を大量作成 iPS細胞から誘導 京大」(JIJICOM, 2022年7/29)である。

記事には,「ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、腎臓の一部の墓になる胎児期の組織「尿管芽」を大量に作製する方法を開発したと、京都大IPS細胞研究所の研究チームが発表した。・・・研究チームの長船健二京大教授は『病気になった腎臓のモデルや腎臓の再構築に多くの細胞を供給できるのではないか』と話した。」とある。

もう一つの記事は,「幹細胞から腎臓組織 京大研究 移植のラットで機能」(朝日新聞,2020年8/24)である。記事には,「京都大学のチームが,さまざまな組織になれるヒトの幹細胞から腎臓の組織をつくり,腎不全のラットに移植したところ,腎機能の組織が回復したと,米科学誌に発表した。・・・チームは腎臓の再生医療として実用化をめざす。」とある。

これらの研究が,人間の慢性腎臓病に対して数年で実用化されることは難しいであろうが,これらはうれしいニュースだ。研究の進展を期待したい。

(ここまで2020年9/21記)

3-4 血液検査結果(Cr, BUN, 赤血球)の変遷-データの追加

  クレアチニン,血液尿素窒素,赤血球数の値の推移を今後もモニターするために,図3-12および図3-3のグラフ(2018年3/20~2020年8/4までの約2年半の間)に新しいデータを次々に追加してゆくグラフを図3-4図3-5および図3-6として以下に示す。

   図3-4 クレアチニンCrの推移(2018年3/20以降,2021年 6/8迄,単位:mg/dL)

横軸は2018年3/6を起点とした経過した週数を表す。縦軸はクレアチニンの値

(単位はmg/dL)を表す。図3-1の最後のデータ(130週目の2020年9/15のデー

タ)以降に追加している。

 図3-5 血液尿素窒素BUNの推移(2018年3/20以降,2021年 6/8迄,単位:mg/dL)

横軸は2018年3/6を起点とした経過した週数を表す。縦軸は血液尿素窒素の値

(単位はmg/dL)を表す。図3-2の最後のデータ(130週目の2020年9/15のデー

タ)以降に追加している。

   図3-6 赤血球数の推移(2018年3/20以降,2021年6/8迄,単位:10000/μL)

横軸は2018年3/6を起点とした経過した週数を表す。縦軸は血液尿素窒素の値

(単位は10000/μL)を表す。図3-2の最後のデータ(130週目の2020年9/15のデー

タ)以降に追加している。