Ⅴ. フォロウアップ・プログラム

16. フォロウアップ・プログラムの実施

16-1.フォロウアップ・プログラムの概要
IMSTEPの終了に当たり,2003年7月28日に,イ国政府から日本政府にIMSTEP活動の継続,とりわけパイロッティング活動の継続を重視したフォロウアップ・プログラム実施の要請が出された。
そこでは,『フォロウアップ・プログラムにおけるパイロッティング活動は,CBCに基づいた新しい教授法の普及に強力なツールを生み出すと考えられる。・・・(中略)・・・さらに,フォロウアップ・プログラムは参加大学と中等理数科の現職教員の資質向上を目指す地方政府との協力の枠組みを確立すると期待される。・・・(中略)・・・フォロウアップ・プログラムの実施を支援するために,日本人の専門家が必要である。・・・同プログラムの普及を効果的に支援するために,インドネシア側からの予算措置が確保される』とあった。ここで,CBCとは,能力資質重視カリキュラムである。パイロッティング活動自体は,IMSTEPにおいて以前から実施されていたものであるが,イ国側はそれをさらに充実させたいという希望があった。
JICA社会開発協力部の米田課長からも,私にこのプロジェクトは成功しているので,さらに2年間続けたいというお話があった。このプログラムは,2003(平成15)年から2005(平成17)年9月までの2年間にわたり,実際に実施に移された(JICA 2004)
フォロウアップ・プログラムの上位目標,目的,対象地域,活動内容(要約)等は,次に示す「インドネシア初中等理数科教育拡充計画フォロウアップ・プロジェクト概要」に示す通りであるが,同プログラムは,これまでのIMSTEP活動を引き継ぎ,特にパイロッティング活動を通じて,現職教員教育や理数科教員養成の質の改善をめざすものであった。
フォロウアップ・プログラムにおけるチーフ・アドバイザーは斎藤英介氏が,業務調整/パイロッティング活動促進の業務の専門家としては久保木勇氏が2003(平成15)年11/17日~2005(平成 17)年9/30迄イ国に派遣された。

インドネシア初中等理数科教育拡充計画フォロウアップ・プロジェクト概要
1.プロジェクトの目的
a) 上位目標
〇科学的思考能力の増大
〇実験技術の向上
〇理数科科目に関する理解度の改善
~暗記型の一方向的な「勉強」から,考え,双方的な「学び」へ~
b) 目的
〇大学の参画により理数科教育における現職教員研修の質を改善する
〇下記プロジェクト対象3大学における現職教員養成の質を改善する
2.対象地域
〇バンドン(インドネシア教育大学数理教育学部,UPI)
〇ジョグジャ(ジョグジャカルタ国立大学数理学部,UNY)州立?
〇マラン(マラン国立大学数理学部,UM)
3.活動内容
〇大学と学校の共同関係に基づく授業研究事業
・各大学:2つの中学校(UPIは3校),2つの高校と協働
・科目:中学校→数学,物理,生物,高校→数学,物理,生物,化学
・授業計画,予備実験→授業実施(参観)→反省会のサイクル
・学校教員と大学教員のフル・タイアップ

16-2. パイロッティング活動1994-学部運営に関わる課題等 
16-2-1. 業務の目的と総括
筆者は2004(平成16)年 8/11~同年8/29,イ国に派遣された。今回の派遣の業務の目的は,理科教育(学部運営)であった。また,パイロッティングの授業改善の校内研修指導や第Ⅱ期 IMSTEPの構想つくり,すなわち「学校における理数科授業の質の向上と,授業改善の量的拡大」の融合をはかる具体像を構想することであった。
実際に行った業務は, 研修指導に関しては,「 理科セミナー」実施,研究授業視察 (2回), 数学セミナー参加, 多くの方々と面談などを行った。また, 第Ⅱ期IMSTEP構想の描出については,派遣期間中に何度となく齊藤氏・久保木氏と相談し,またウトモ氏,神田氏,平中氏,橘氏とも懇談し,さらに3 大学学部長と緊急の会談(management meeting) を開いて協議した。その結果全体像がかなり明確に見えてきたと思う。特にウトモ会談の内容と同氏の指図によるmanagement meetingの設定は ,次期 IMSTEPへのイ国側の強い期待を物語るものである。
なお,第Ⅱ期IMSTEP構想に当たっては,イ国内で授業改善の急速な普及が急がれるものの,その基盤整備も忘れぬように,総合的視点からの検討が必要と思われる。また,近いうちに,米国もイ国において,IMSTEPよりも格段に大型の教育支援を開始する予定であり,IMSTEPもこれを意識してより特徴を出すことが求められよう。次期IMSTEPの策定においては,これらの点も考慮すべきと思われる。以下では,実際に行った業務について,その概要を述べる。

16-2-2. 日程および計画の変更
8/11(水) 夕刻 ジャカルタ スカルノハッタ国際空港に到着
8/12(木) lMSTEP関係者との面談(1):久保木氏と 1日 を かけて次 の 4ヶ所を回った。
①JICAジャカルタ事務所,次長戸塚真治氏並びにIMSTEP 担当橘秀治氏と面談
②教育省高等教育総局(DIKTI),国民教育省政策アドバイザー高等教育行政担当の平中英二氏
③インドネシア国家教育省初等中等教育総局,TICA 派遣専門家 神田優美氏,(財)国際開発センター研究員,佐藤幸司氏 (REDIP 担当)
④ Ir. Oetomo Djajanegara(ウトモ)氏,CPIU (Central Project Implementation Unit)
バンドンに移動。
8/13(金) IMSTEP関係者面談(2) UPI
UPI の理数教育学部長 Harry Firman 氏に挨拶。西谷氏, 斎藤氏と面談。
8/14(月)「数学セミナー」参加(午前,数学セミナー反省会」参加(午後) 西谷先生の数学セミナー.午後,感想 を話し合う。
8/18(水)8:00 Weekly meeting,今後意見交換会.11:00 数学セミナー反省会
8/19(木)Management Meeting 参加
8/20(金)~8/22(日) 病床(風邪, 熱), 書類処理
8/23(月)UPI,理科セミナー用プレゼン資料作成(未完)
8/24(火)日本人専門家会議(将来計画),研究授業参蜆(第12中学校)
8/25(水)研究授業参観(UPI附属中学校),塚本氏と面談(夕刻)
8/26(木)9:00 Weekly meeting (UPI: DeanおよびVice Deans,Sumar 氏, 将来計画), 11:00 学長面談(大学間交流可能性).理科セミナー原稿作成
8/27(金)「 理科セミナー」にて講演 “Observation Points of Science Classrooms and Ways of Organizing Lesson Study in Japan” 。
ジャカルタに移動,JlCA Jakarta事務所にて会談
8/28(土)報告書作成。夕刻帰国便にて出発。
8/29(日)成田着(08:05)

16-2-2-2. 計画の変更
当初予定されていた地域教育開発支援調査 (REDIP : Regional Educational Development and Improvement Program I & 2) サイトヘの訪問は,いくつかの理由で取りやめとなった。 REDIPとIMSTEPの連携の可能性をさぐることが今回の出張の目的の一つでもあったが,訪問予定先(北スラワシあるいは中部ジャワのREDIP)の担当者が引き継ぎの次期で不在であり,また,県レベルの教育政策へのコミットメントの多寡がまだ明確でなく,IMSTEPとして活動サイトをはっきりと決定できない点があったためであった。

16-2-3. IMSTEP 関係者との面談
16-2-3 -1.関係者面談(1) 8/12
8/12,平中英二氏, 神田優美氏,ウトモ氏,JICA次長と面談した。
1) 9:00 JICAジャカルク事務所次長 戸塚真治氏並にIMSTEP担当,橘秀治氏と面談。訪問の目的,LPTK 評価法などについて話す。
2) 10:00 教育省高等教育総局(DIKTI)
国民教育省政策アドバイザー高等教育行政担当,平中英二氏と面談した。イ国の教育 動向全般,特に地方分権化のその後の様生徒などを伺った。
3) 11:00 インドネシア国家教育省初等中等教育総局,JICA 派遣専門家,神田優美氏と面談
第二期 IMSTEP が開始の場合に ,初等中等教育総局から案件要請が出される予定とのことで,これまで関与していた高等教育総局との関連などを伺った。
4) 12:00 イ国国家教育省初等中等教育総局,(財)国際開発センター研究員,佐藤幸司氏 (REDIP 担当)と面談した。
RIDEPでは,教育の質の向上が課題になりつつあること,授業改善を直接指導できる人材(日本人)が求められているとのこと。
5) 13:00 CPIU(Central Project Implementation Unit)の Ir. Oetomo Djajanegara(ウトモ)氏と会談した。
次期 IMSTEPの可能性や枠組み,担当者,国際的動向などについて話しあった,

平中英二氏,神田優美氏との面談においては,広げるのは結構なことであるが, REDIPとの連携についてはあまり無理をしないようにとのことであった。
ウトモ氏との面談においては,現在の教育動向や次期IMSTEP案について話し合った。次期 IMSTEP は初等中等教育総局へ移行すること(これは,筆者が初中局の関与をIMSTEP当初より主張していたことでもあり了解した)。また米国の大規模な教育支援が開始されるであろうこと,しかし,イ国側はIMSTEPについては,規模は小さいが 評価していること,いずれにせよ,イ国側は,米国のプログラムと重複しないようにしたいということなどがウトモ氏より語られた。最後に,筆者の今回の滞在中に主要関係者と,IMSTEPフォロウアップ・プログラムの評価および今後のイ国の理数科教育の発展 方策を協議することを約束した。これは,後日,management meeting として結実した。さらに,後日,この management meeting に間にあうように,ジャカルタのウトモ氏から,面談内容の記録が筆者に送付された。この記録には,面談内容の主要な点が記述されているのが,ここでは詳細は割愛する。また米国の計画US-AIDの資料も頂いた。

16-2-3-2. 関係者面談 (2) 8/13
8/13(金),インドネシア教育大学 (UPI)の理数教育学部長Harry Firman氏に挨拶し,また,斎藤氏やすでにイ国に着任されていた数学教育の西谷専門家と面談し,IMSTEPの現状などを伺った。Harry氏には,継続に対する大学側の意欲などを質問した(もちろん高い意欲を示した)。また,本年9月下旬から再度インドネシアを訪問して実施する予定の東学大とインドネシアの大との大学間交流協定可能性調査ならびに引き続き行う本年10月初旬 (10/2,10/3) にジャカルタにて日本学生支援機構主催で開かれる「2004年日本留学フェア(インドネシア)」参加への協力を要請した。前者については,後日,UPI学長への面談を設定して頂いた。これらの件は,本派遣の直前に東学大留学生課より文部科学省の予算が付いた旨連絡があったので,帰国後詳しく相談することにしたものである。後者は,9/9のジャカルタでの爆弾テロがあった後 ,急逮延期となったが,箪者は大学間交流可能性調査にはほぼ予定通り出向くことにし,た。齊籐氏,久保木氏より新しい資料入手。昨日入手した資料と共に,約半数の資料に至急 眼を通す。

16-2-4. 「数学セミナー」「同反省会」 (8/16) 参加
8/16(月), 数学教育の様生徒を把握するため,西谷先生が開催した「数学セミナー」および「同反省会」に参加した。前半 (2時間半程度)は 西谷先生の研究授業についての方法論的な謬話, 後半は数学の授業のビデオを見ながら反省会を行った。
数学セミナー参加者は40名程度(大学教員4,5名,学校教員,学生,専門家など)。西谷氏によると,8月上旬に開かれたNational seminar では講演の時間が短かく,十分に説明ができかなかったため,本セミナーで内容を詳しく説明したとのことであった。前半と後半に分けて 8時から12時までみっちり実施した。
かなり質疑応答が盛んでよい。しかし,数学的な内容について質問や討譲が少ないのが少し寂しい気がする。授業のピデオはパイロット校で収録されたものらしいが,本セミナーには撮影者はは都合がつかず不在であったが,TTは参加した模様。内容は2次関数。
このセミナーに参加して,イ国側参加者(学校教員と思われる)が,授業研究の方法などについて,あまりにも無知で認識が低いことに驚かされた。今後,授業改善のために研究授業を強力に普及する必要があることを改めて実感したが,かなり時間がかかるという 印象を受ける。ただし,大学教員の方は,かなりレベルが上がってきた印象である。
後半は「反省会」であった。反省会は大学教員が主であった。イ国側は 6, 7名。西谷先生の研究室へ研修にゆかれたUPIの教員Hendra氏が司会を担当した。筆者は,意見を求められので「授業のビデオの取り方」について意見を述べた。授業の流れがわかるように撮る必要性を強調した。結局,反省会は,ほとんどその話題で終始した。筆者は,ビデオ撮影の専門家を呼んで, 内容に迫ったり, 授業の流れがわかるような撮影の指導を受けること,NHKを定年退職されたカメラマンの方などを日本から呼んで研修を受けることが望ましいと提案した。
これは,筆者の経験から述べたことである。数年前に,IMSTEPの文部科学省側の当事者である遠山氏が,数年前に「良い授業の条件」についての大学レベルのビデオ・スタディを科研費で実施し,多くの大学の授業を録画して研究なさっておられた。学大へ筆者の授業の撮影にもみえた。後日そのビデオを拝見したが,我々が(学生)学校の授業研究で撮るものとは全く違うことに驚かされた。撮影者は,NHKを退職されたプロのカメラマンの方であったが ,講義の流れを的確に追っている。顔のクローズアップ,学生の様生徒などの撮影も実に的確であった。何も打ち合わせしておかなくてもこのようにうまく撮影なさる。

司会の Hendra氏も,そのような専門家からの指導を強く希望し,IMSTEPで沖縄に教育工学の研修に派遣された大学教員がおり,彼がビデオ撮影の講習会を開いたが内容的に撮り方まで伝えられなかったという。日本から呼ぶのは費用面の問題が懸念されるということで結局のところ,司会をした教員が,学内の芸術学科のそうした技術を持っている友人の教員に依頼してみたいということになった。カメラマンとの事前打ち合わせの必要性も討謙された。
確かに,日本の研究授業でもビデオを毎回撮っているわけではない。人手不足で捕り手がいない場合も多い。また撮影しても それを見直している時間がない。しかし,インドネシアでは,今後,授業研究を普及したりその質を向上するために,マイクロティーチングの手法として,ビデオ撮影を普及することは無駄にはならないと思う。それはパイロッティングの普及にも効果手的であろう。今後,本件は必要に応じて再度検討してもよいと思う。

16-2-5 Management Meeting (8/19)
8/12にウトモ氏に面会の際, 将来について話し合う検討会を申し込まれたが,8/19に Bandung にて,その会が実現した。インドネシア教育大学,ジョグジャカルタ大,マラン大の 3 大学の理数(教育)学部長および local coordinators が急逮 UPI に招集された。ウトモ氏は欠席(後に電 話で Harun 氏に様生徒を聞いたようである)。筆者はウトモ氏作成の会談メモを配布した。ここでは,フォロウアップ・プログラムの評価も話された 。筆者は,次期 IMSTEPに関する質問を数多く投げかけ討議した。Meetingの内容は,ここでは割愛するが,1点だけ補足しておきたい。次期計画においては,JICA側としては「初等中等理数科教育」の中等教育部分は義務教育段階の中学校教育(前期中等教育)をターゲットにすることを考えていることを話し,3大学学部長の意見を聞いたところ,UPI は同意,UNYとUMは高等学校(後期中等)までも含めたいとの意向を示した。初等中等教育の一貫性の立場から,重点を中学校に置きながら,若干高等学校や小学校に展開することが現実的であると思われる。なお, インドネシア国研究・技術省顧問の塚本勝氏の資料によれば(インドネシア科学技術省・インドネシア科学院 2003),イ国ではまだ中学校卒で就職する生徒が多い(70%~80%)のが現状であるから,中学校を重点にすることは妥当と思われる。しかし同時に,将来の国造りの基礎となる人々の基礎教育の視点から高等学校も視野に入れておくことも重要であろう。

16-2-6 日本人専門家会議 (8/24)
8/24(火)午前中,UPIのFPMIPAにて日本人専門家会議が開かれた。参加者は下條,久保木氏,賓藤氏。以下は会議のメモである。(齊藤氏記録のメモによる)
後継案件につき,日本専門家側で協謙を行った。議事詳細は下記の通り。
1) REDIP との関係
下條よりは,
(1) 東京本部側から依頼された所掌業務としてREDIPとIMSTEPの接合性について検討があった,
(2) 平中,神田各専門家の見解としては接合を急ぐ必要はなく,今後も十分にすり合わせを行うべきとの由であった,
(3) REDIP 佐藤団員は教科教育法に関する技術移転について高い期待を有している,との報告があった。
脊藤,久保木よりは,急な案件合併はないが,しかし,事業対象地域を重ねる,あるいはIMSTEP の制作品をREDIP でも施行してもらうなどの連携は十分にあり得る,との説明があった。
2) 次期フェーズにおける戦略
下條よりは,
(1) 大学・学校間協働の拡充を次期フェーズ重点領域とすることは賛同だが,授業研究だけを主要内容とするのは,効果発現に時間がかかるため疑問である,
(2) 学校レベルにおいて,理科実験に関する基本機材がどの程度使用されているのか調査が必要,
(3) 実験機材など,一部小規模な研修機材を大学ならぴにパイロティング校に対して 導入する事が望ましい,
(4) 中等理数科教員の専門力量改善のためには,授業実施能力の改善に加え,学科目知識に関する深化が必要,
(5) カリキュラムの連続性を検討する視点から,パイロティングに小学校を一部含めても良い,
との指摘があった。
久保木,賓藤氏からは ,
(l) 研修機材を大学に導入するのは問題ない,
(2) ただ学校レベルの機材導入では,その,後学校改善のための無償案件における理数科実験機材パッケージ開発につながる企画が求められる,
(3) 初等教育の取込については,インドネシア側に検討を求める,
旨の返答があった。
3) ジャワ外島の事業実施対象化
賓藤・久保木氏よりは,
(1) 次期案件では,ジャワ外島を対象とする旨J1CA内部では概ね合意されている
(2) 非公式に橘職員と賓藤氏とで協議した際,RIDEP対象地域である北スラウェシでは,大学のIMSTEP に対する理解がありと実施可能性が高いものと考えた,
(3) だが先日の運営会議でのインドネシア側発言ではDINASの予算措置の約束取付が必須との由だが,同地域には課題があり検討を要する,
(4) 従来の3学支援ではなく,ジャワはUPIとし,外島と並んで主要対象は2地域となる可離が高い,
旨の報告あった。
筆者からは,
(1)外島を対象とすることは了とする,
(2)DGPSEに調査し,DINAS,大学側の意欲が高い所を選定したい,
(3)従来のC/Pを包摂する工夫が必要であり,大学,学部,個人にとりメリットのある案件内容としたい,
と指摘した。
4) 大学教育に対する事業実施結果の波及
筆者からは,現在,タスクチーム B は純粋自然科学について共通教科書を作成しているが,教科教育についての教科害,あるいは資料集・シラバスなどの作成が必要なのではないかとの発言があり,賓藤氏,久保木氏は了とした。
5) LPMP,PPPG との関連性
筆者からは,LPMP,PPPG との棲み分けに留意すべきとの指摘があり,賓藤氏は関連性については,品質保障機関という機構上の性格,ならびに機能不全・士気停滞の問題があり協力は難しい旨述べた。
久保木よりは,LPTKに対する訓練事業と同様の内容を,LPMP,PPPGに実施することも一案である,との発言があった。

16-2-7. 中学校理科の研究授業参観 (8/24,8/25)
パイロットティングの中学校2校の理科授業を視察した。 8/24はUPI近くの第2中学校(数年前に訪問したことがある)および翌日はUPI内の附属中学校であった(同校は以前は大学附属でなかった)。学習内容は,生物の「生き物の特徴」。評価シートが用意された。
授業の仕方はいろいろ問題があるが,生徒の表情が実にいきいきとしている。授業後,校内の同じ教室で行われた反省会では,UPIの教官が,なかなかよい批評を行った。これは,彼らが授業をよく見ておりまた見る視点が深まってきたためと思われる。大学教員のレベルが上がりつつあることを実感した。
また,授業を行った学校教師は,批判をおそれぬ態度であった。批判を恐れる点は,これまで, 筆者が最も懸念していたことである,このような態度が広がってほしい。これまでは,筆者が校長の前などで,授業の感想を求められるままに述べると,授業者は批判されたと思ったのか,青い顔になることがあった。このような反応が強いと授業改善につながらないからである。

16-2-8. 理科セミナーの実施 (8/27)
8/27(金),筆者は理科セミナー(9:00-11:00)を開催し.講演“Observation Points of Science Classrooms and Ways of Organizing Lesson Study in Japan” を行った。Sumar氏の翻訳。UPIの教員30 名程度,熱心な質疑応答があった。
今後,パイロッティングなどで授業研究の質的向上や普及に当たり,参考になるような話をすることにし,日本語に訳すと「理科授業の観察のポイントと日本における研究授業の持ち方」というタイトルで実施した。
講演の 概要は次の3部から構成した。
A) 理科教師が必要とする資質・能カ-日本の場合-
授業研究とは何か?理科教師の資質・能力,および観察・実験の意味についての教師・生徒の考えについての2つの統計資料による話(鳩貝 2002,久田 2002)
B) 授業観察の視点
バイロッティングの普及に伴い,授業の親察者・評価者として,「授業をいかなる視点で見ればよいか」について深める必要があると思われたので,このような話 題を入れた(東京学芸大学理科教育検討会, 2002)
C) 授業研究発表会の開催方法
さらに,パイロッティングに関連して,大規模,中規模,小規模などの授業研究発表会の持ち方について話す必要があると考えた。IM。STEP のパイロッティングは,単発の小規模な授業研究であり,学校が全体として取り組むものではない(学校全体で取り組む研究発表会は理数科に限らないが。)。したがって,規模の大きなより組織的な授業研究発表会の存在を示すことを目的にした。
次に簡単に内容を紹介する。
A)  理科教師が必要とする資質・能カ-日本の場合―
まず,授業研究とは何かについて簡単に触れた。日本の授業研究とは,一般的には,教師による自律的な授業改善の仕組みであり,教材研究,研究授業(公開授業),討議・教訓の獲得というような流れを再帰的に繰り返す仕組みであることを述べた。
次に,理科教員に必要な資質と研修について 日本の教師の場合のデータを紹介した(鳩貝2002)。次に示す。
<教育 センター等の理科担当者が理科教員の資質として「大いに」必と要考えるものとその割合(n=214) >
理科を担当する教員の資質として必要な事項
1) 実験中の事故やけがなどに適切に対処する体制を組織できる。
2) 生徒の理科学習のつまずきを調べることができる。
3) 実験・親察にあける評価ができる。
4) 理科に関する生徒の興味・関心についての状況を把握できる。
5) 生徒の質問に即答できないものには解答の調べ方の見当がつく。
6) 理科室・準備室の備品や消耗品の管理ができる。
7) 他の学校種の理科の教科番にでている内容が理解できる。
8) 理科関係のクラプや部・同好会の指導ができる。
この結果が示す通り,日本の理科教師の資質としては,安全管理が最も重要視されている。この調査が教育センターによるものであるためもある(事故防止を最も重視)が.これは,日本の理科授業が,引き続く銀察・実験の積み上げで構成されているためであることを示していると考えれる。そのことを.イ国側に伝えるためにこのデータを用いた。しかし.授業は観察・実験の安全面のみではなく,次のような他のいくつかの側面があることが,このデータで示されている。すなわち.日本の中学校理科教師は,
・実験的側面: 安全管理 ,実験の評価, 器具・消耗品の管理
・認知的側面: 誤概念 (misconception)
・情意面:興味・関心の喚起
・科学的内容面(学術的力)面: 研究方法・広い知識
・リーダーシップ(指導力)面:クラプ活動の指導
・カリキュラム(生徒の知的発達)面:小学校や高等学校の教科書の内容把握
などを重視している。
イ国では.一般的にまだ中・高等学校の理科授業は観察・実験の継続型になっていないから,安全管理が最重要と言うことはないだろう。しか,しこれまでの筆者の派遣時にも 指摘しておいたように,次第に親察・実験が多くなると,安全管理の資質が問われるようになるので,そろそろ,その対策を講じておくことが望ましい。
次に,日本の学校では理科の観察・実験はどう思われているか,日本の理科は実験になぜこだわるのかをテーマに話した。
「観察・実験」を取り巻く最近の状況がどうであるかを知るため`に久田らは,中学校理科教師 (35名)と彼らが指導する中学2年生 (8校,290名)を対象に,なぜ理科授業で「鏡察・実験」を行うのかという理由についての調査を行っている(久田 2002)。「観察・実験」を行う理由としてより重要だとみなす順位が算出されている。
教師では,上位順に
「学習内容に興味・関心を持たせるため」
「科学の方法を身に つけさせるため」
「科学的探究活動を経験させるため
「学習意欲を高めるため」
「 実験技能を身につけるため」
「科学的思考力を育むため」
「自然認識を深めるため」
「生徒の持つ非科学的な考え方を科学的な見方や考え方に変えるため」
「科学概念の理解を深めるため」
「生徒独自の理論や考えと科学理論や法則との問の矛盾やずれを認識させるため」
「科学知識の定箸を図るため」
「コミュニケーションスキルや科学的記述力を身につけるため」
「仲間と協力して学び会う力を育むため」
「科学者の活動を理解させるため」
生徒では,上位順に
「実験器具の使い方や実験技術を身につけることができるから」
「学習内容に興味・関心を持つことができるから」
「理科授業にやる気がでるから」
「学習内容を記憶しやすくなるから」
「科学的に考える力を身につけることができるから」
「理論や法則が理解しやすくなるから」
「自然についてよく知ることができるから」
「科学者の活動を理解することができるから」
これらのデータをもとに,教師と生徒のちがいなどを着目点に.日本の理科教育についての話をした。

B) 授業銀察の視点
教育実習や研究会で,他の実習生や教諭による理科の授業を参観する場合がある。授業参観の視点はどうあるべきか。これは自分が授業をする場合の視点でもある。「どの生徒が活発に発言したか」「教師の声の大きさは適切」などの点に着目することも大事であるが,授業の目標の達成という面か,ら以下のような授業蜆察の視点が考えられる。これは授業評価の視点でもある(東京学芸大学理科教育検討会 2002)
ア)生徒と教師間の関係はどうなっているか
生徒一人・一人の個別性にいかに配慮しているか。黙って手もあげず,発言もせず,話し合いの時間になっても話をしない生徒。考えすぎる,生徒何をやっているかまったく分からないでいる生徒が数名いる。その生徒は何を考えているの。かどう対応するか。また優れた意見を述ベル生徒にどう対応するか。教室内の議論をどのように高めるか。構成主義的銀点からは,教師と生徒ばかりでなく,生徒同士の対話をつくることも大切である。
授業レベルを平均に合わすことは正しいか?
イ)生徒供の自然認識はどうなっているのか
生徒のもつ素朴概念はどのようなもので,それは授業でいかに変容してゆくのか。
ウ)授業は問題解決的か
教師から生徒への一方的な知識の教え込みの授業ではなく,生徒に考えさせ,確かめさせる問題解決型の授業か。生徒の仮説股定は,生徒の能カレベルを超えたものを要求していないか。
エ)関心・動機づけは適切か
関心・動機づけをどのように行っているか。日常生活との関連づけを行っているか
オ)観察・実験は問題なくなされているか
銀察・実験の準備は適切か。安全性への配慮はなされているか。
カ)プロセス・スキルズヘの配慮はあるか
理科の授業は知識だけではない。プロセス・スキルズを育てようとしているか。
キ)学習指導案は適切か
導入,展開,まとめなどの流れは適切か。学習指導は,学習指導案通りには行かないことが多いがその対策は?
ク)活動形態は妥当か
学習内容とグループ活動などの整合性は適切か。
ケ)教育目標は達成されているか
特に行動目標は達成されているか,形成的評価がされているか。評価の生徒や教師へのフィードパックはなされているか。
コ)教材
教材のレベルは生徒に適切であるか。 視聴覚教材はいかに活用されているか。
サ)教師の話し方
生徒に分かりやすい言葉で話しているか。話し方の速さは適切か。生徒に考えさせる間をおいているか。生徒の状態を見ながら話しているか。
シ) 生徒の思考状態に配慮しているか
生徒の知的発達を配慮している? 生徒のメタ認知に配慮しているか?

C) 日本における授業研究
ア)授業研究の形態
全中理.全小理レベル(教員団体).学会レベル.国レベル.都道府県市レベル.各学校レベルでさまざまなものがあること
イ)日本における校内研修とその実施方法
保護者を含む一般参加者に公開(通常の授業など)数百名,同じ学校の教師に公開(校内研修)数十名,他校の教師・教育関係者に公開 千名,
規模の大きな研究授業。附属学校や研究校。数年に一度
ウ)研究授業の方法(最も一般的な場合)
校長が事前に学校全体のマネージメントを実施する。
取り組みの仕方:学校全体か?  1 学級か?
テーマ:学校全体のテーマ,日程:1 日,
講師依頼:大学教授など,公開案内(案内状発送)少なくとも数ヶ月前に講師に前もって指導案を配布,
教材研究を行い,学習指導案を作成する。
指導案作成(本授業の位置づけ),単元名,単元の概要,目的
これまでに,どのような授業を行ってきたか。何時間をかけたか。
これから,どのような内容の授業を,何時間かけて行おうとしているのか?
「事前」には,授業日の設定,授業研究の内容の討議,案内配布'会場準備,担当教員は指導案作成,授業のねらいや単元内の位置づけ,展開,まとめ,生徒の反応の予想など。「当日」は指導案の配布 ,研究授業など,「事後」は協議会(評価)開催(授業者,各教員の意見, 講師の意見,総括,司会と記録など)がある。また,授業者以外の教員(含む校長)の仕事には,「訪問者対応」がある。
研究授業を成功させるためには,相互批判をおそれない教員文化が必要である。
C) については,実際は,10 分位要点を話すにとどまった。また,通訳が入って時間不足のためB)で,メタ認知の重要性についてもふれる予定であったができず,質問は活発に出された。特に 2つめのデーク(教師と生徒の観察・実験に対する考え方) の解釈が多かったように思う。東学大が附属学校と共に数年ごとに実施している大規模で組織的な授業研究の在り方の紹介には,驚いた表情を見せた教員も多かったように思う。その他,補修授業などについても質問があった。

16-2-9. 将来展望-第Ⅱ期IMSTEP に向けて-
16-2-9-1. イ国における理科教育の現状
イ国の理科教育において,もちろんイ国側も改革に努力しているものの理想的な理科教育の授業を展開する上での制約は依然として,以下のものがあると思う。
(l ) 施設・設備の不備
学校の校舎そのものが不足しているようである。二部授業制の採用もみられる。理科室も無いところもある。電灯が無かったり,あるいは少ない暗い教室が多い。1学級の生徒数も40名以上の場合が多い。
(2) 観察・実験の欠如
「もの不足」を反映して.親察・実験器具がほとんどない学校も多い。一般に小・中・高等学校で実験がほとんど行なわれていない。実験・親察の方法や必要性が理解されておらず,実験器具はあっても使われない場合も多い。一方,教材会社が育ちつつある。
実験の時間の確保はカリキュラム上の問題もある。実験準備の時間不足は学校経営の問題でもある(実験助手の確保)。そのような実態調査と対策が必要である。
機材配布,機材の使用法・管理,法保守.消耗品の補充,新しい鏡察・実験法の普及, 教材開発・研究などについて,調査が求められる。
(3) 知識重視の伝統的教授法
観察・実験もなく,教師が一方的に知識を黒板を使って伝授するクイプの授業が多い。教師の資質・能力の向上は,研究授業の普及(指導法,観察・実験技能の向上,新しい考え方, 教材研究, 科学的考え方 など)が効果的と考えられる。一方で.大学における教育研究の向上も課題である。後者の成果が前者に反映されるようになれば,自立的な改善が開始される。教師の意識変革をいかに進めるか,大学教員の姿勢が課題である。
(4) 少ない授業研究
パイロッティング以外では,授業研究がほとんどなされていない模様。「研究授業」もない。学会活動もない。教材開発や授業法改善の冊生徒またはニュース発行が求められる。
(5) 学部教育と学校現場との連携の少なさ
パイロッティングのような活動がイ国内で常態化していない。IMSTEPで部分的・局地的に強力な改善が進みつつあると思う,が授業研究をさらに普及したくても,組織上の課題の他,学校教員がアルバイトで研修会に参加できないなどの社会的課題もある。教育は複数の要因が複雑にからむので,できる限り総合的な取り組みが望ましい。

16-2-9-2. 初中等理数科教育改善支援の継続性と基本問題
IMSTEP の効果としては,教員の資質向上に貢献している。塚本氏よりも高く評価されたように.インドネシア語の大学生用教科書開発もある。授業研究も少なくともIMSTEPのパイロッティングでは定着し広まりつつある。
大学一学校連携による学校(パイロット校)の授業改善が著しい。授業改善の規模をできるだけ速やかにイ国内の学校に普及することが望ましい。しかし.後述するように,次期IMSTEP(第Ⅱ期)では.授業改善のみに特化することは不十分な側面があり,総合的検討が必要である。
基本問題としては,次の課題がある。
①資格付与の課題
第Ⅰ期IMSTEPの実施期間においては,イ国では現職教員の資格付与(法改正で中等教員は大卒レベルにしたため,末資格の現職教員が大量に発生し,イ国教育省が対応に追われた)が大きな課題の一つであった。しかし,イ国で近年進められてきた教育の分権化後,それが縮小されてきたようである。現在でも3大学において細々と行われていると思われるが, 過去5,6年間で資格付与の課題が消失したとは考えにくい。教員の資格保持の適正化は,国家戦略上重要なことである。明確な数値は,入手できていない。
②授業改善の限界
授業改善のみを進めてもいずれは限界が現れると考えられる。IMSTEPフォロウ・アップでは, 授業改善と教科書作りなどの IMSTEP残余作業と授業改善が主であった。授業改善の効果は十分にでつつあると思われる。しかし,次期 IMSTEP では,授業改善のみに特化することは,不十分である。
クラス・サイズ(1学級の生徒数:通常は50名), 理科室の有無,観察・実験用器具の未充足, 学習内容の過多など,学力向上にはいろいろな因生徒が関与しており,それらの課題も同時並行的に改善されなければ,授業改善のみを切り取って進めても,効果はいずれ限界に突き当たる。観察・実験用器具の未充足のままでは,優れた授業は期待できない。このように,教育は総合的であるので.カリキュラム改善,器具配布,クラスサイズ改善,理科室の改善など,イ国政府の総合的な教育改普対策の欠如が気になるところである。
「第Ⅱ期 IMSTEP」の設計に当たっては, 特に上の 2点について考慮すべきである。

16-2-9-3. 第Ⅱ期IMSTEPの基本構想
第Ⅱ期 IMSTEPの構想については,今回の派遣期間中を通して,多くの方々と協譲する機会に恵まれた。筆者がイ国離任直前の8/27,JICAジャカルタ事務所にて橘氏,神田氏,齊藤氏,久保木氏と協議した結果が.これまでの最終的構想と思われる(今後さらに検討と具体化が進むであろう)。
筆者の誤解があるかもしれぬが,以下に簡単に要点を示す。
この構想をまとめるに当たっては,「イ国内の理数科中等教育において,授業改善をいかに迅速に普及するにはいかなる戦略がのぞましいか」という問題意識でまとめられたものである。その際に,最も問題であったのは,県や州レベルの学校教育行政との接続・関与の方法であった。それなくしては,学校における授業改善の全国展開は困難であるからである。
議論の結果, 構想の概略(特に組織図)についおても案が出された。内容についてはさらに検討を要する。
IMSTEPでこれまで実施してきたパイロッティングの規模は小さく,それを補完する戦略が次期 IMSTEP では求められよう。パイロッティングによって,長期的にみれば,資質・能力の高い教員が排出されることになるので,授業改善をイ国内で可能な限り急速に普及することが最も重要である。学校における理数科の授業改善の急速な普及-全国展開の足がかり―をいかに作るかが課題である。授業改善を急速に普及するという点からはどのような戦略があるか,次期 IMSTEP がイ国の長期的な展望の中でいかに位置づけられるかなどについて考察が求められる。
こうした目的からみると, 協力3 大学以外の全ての旧IKIP校が,IMSTEPの授業研究(パイロッティング)の普及に努力すれば,それらの周辺において授業改善が進む。
1) 旧IKIP校と協力3大学との共同セミナー.シンポジウムなどの開催
大学教育の改善は,長期的には多数の質の向上した卒業生を送り出すので,教育の質の改善につながるが,パイロッティングにより授業改善につなげることができよう。パイロッティングの効果や方法に関してセミナーやシンポジウムを開催して普及する。しかし,これでも量的には少なく,限界がある。具体的には,REDIP対象区域内の教育関係機関への支援も考えざるを得ない。また,部分的機材供与(通信施設含む)も考慮する。
2) MGPGなどの支援
可能な地域でMGPGを支援する。これはDINASの県レベルのサポートが必要なため,まずそこを固める。MGPG所属のスタッフがパイロッティングや研修会に現在でも多少参加かしているらしいが,組織的にはIMSTEP としては ,まだ手つかずのため,すぐに実効性が期待できないものの将来性はある。DINAS の県レベルのサポートについて,REDIP との協力もありうる。IMSTEP とREDIP とは,「ゆるい結合」を考え,無理をしないようにする。それは地理的な乖離もあるためである。「協力3大学」は,次期 IMSTEP でも,活動の中核として位置づけられる。
3) 放送教育などの活用
イ国でも放送教育が立ち上がりつつある。放送教育,は教材や親察・実験法,授業法などの普及にも寄与できる可能性がある。いくつかのモデルをつくる効果は,学校教員の授業改善意欲や校長の指導力に大きく依存すると考えられる。この方面の専門家が育って いないところが課題である。人材がいれば積極的に展開する可能性もある。
これまでのIMSTEPの成果を踏まえて,成果の普及や,理数科教育の質的向上の継続と普及活動の量的拡大をはかる。小学校に対してはSEQUIPがあるので,第Ⅱ期 IMSTEPは中等特に前期中等理数科教育に重点をおく。米国等のプロジェクトUS-AIDとできるだけ競合しないようにする。
教員養成を通した質の向上とその普及においては,中核3大学,中核3大学を除く他の旧 lKlP校,「県レベルの学校教育とつながりの強いREDIP地域内」の大学や教育機関などを通して,授業改善等がイ国全体に速やかに広がる枠組みを考える。ジャワ島外の大学も1,2校は対象とするもよい。しかし,理科教育においては.授業改善と共に,機材整備や内容の理解など,他の側面にも十分に配慮が求められる。
次期IMSTEPでは,初等中等理数科のカリキュラム改善も,内政干渉にならないように若干支援することも考えられる。また,学部教員の教育研究能力の育成も課題である。特に,教科教育的側面の強化を図るため,教科教育関係の授業の標準シラバス作成ヘの協力や,教科教育資料集の作成なども考えられる。

16-2-10. その他
1) UPI 教員の教育会議(マレーシア)出席
マレーシアのマヤラ大学で開催された教育関係の会議に理数教育学部の教員数名が参加した。同会議でインドネシア教育大学のHarun氏がIMSTEPを紹介し,マラヤ大学教員のIMSTEP活動に対する強い関心を喚起したようである。
2) インドネシア研究・技術省顧問塚本勝氏との面談
筆者がUPI 滞在中に,塚本氏がUPI を訪問され,基礎教育について議論した。同氏は, JMSTEP で開発したインドネシア語の大学生用の理数科基礎科目の教科書に大変興味を持たれた模様。それらは科学技術者の基礎教育として重要という認識を示された。
3) 大学間協定
東学大学長の依頼により,lMSTEP支援3大学と結ぶ東学大で大学間交流を将来結ぶ可能性調査に, 筆者が本年9/21~10/2 までイ国に派遣。本来は, 10/4まで滞在して2004 年度日本留学フエア2004(インドネシア)に参加の予定であったが,9/9の爆発さわぎで,フエアは数ヶ月延期された(結局,とりやめとなった)。

16-3.パイロッティング活動の実際-開始から9ヶ月間の様子

フォローアップ・プログラム期間(2003年10月~2005年9月)においては,(株)海外協力所属(当時)の久保木勇氏がイ国の国家教育省高等教育総局に配属され,フォローアップ・プログラムの業務調整(業務調整/パイロッティング活動促進)を担当された。フォローアップ・プログラム開始から9ヶ月経過した2004(平成16)年6月頃までの期間におけるパイロッティング活動について,同氏から得た同活動(支援)についての情報を参考に,その実際をみてみる。以下は報告されていた当時の様子を抜粋している。

16-3-1-1.活動内容
この期間の同氏の活動内容は,経理,プロジェクト関連機関(UPI,UM,UNY,CPIU,教育省,JICA事務所)との連絡調整,,会議運営サポート(プロジェクトの週間会議,タスクチーム会議,ワーキンググループ会議,ナショナル・セミナー,マネージメント会議,ステアリングコミッティー会議,JCC),短期専門家受け入れ調整,教科書作成作業促進,広報,プロジェクト関連の業務ファイル整理,パイロッティング活動促進ほか各種プログラムのサポートと多岐にわたった。
16-3-1-2. 達成状況
教科書(大学生用)については,これまで未完成分(改定作業)の教科書についてフォローアップ・プログラムでのタスクチームB と協力しながらの作業促進を進めてきた。2004年6/3現在UPIでは残1冊,UNYでは残3冊となり,フォローアップ期間中の3学期内で 試 行 し ,すべての教科書が終版完成にたどり着けると可能性がある。
また,当初計画にあったJCCの開催は,経過報告を含めた今後のIMSTEPの成果の普及にかかわる目的へと内容の変更を検討をしており,6月末から7月開催の可能性となった。

16-3-1-3.具体的成果品
教科書(大学生用):共通教科書+個別教科書(1) 15冊印刷,15年度中10 冊追加,当時現在5冊がプロセス中であった。
広報活動:
ジャカルタ新聞 2003年1月にJICAフォローアップ事業でピデオ教材作成のワークショップを行った。教育雑誌にIMSTEPのCP研修経験者たちの活動を,理数科教育改善の記事として投稿し掲載された。
MGMP(地域レベルの教員研修集会)との共同事業として,UPIで行われたの化学および数学のワークショッ プの記事が4月に地方紙に掲載された。
ナショナル・セミナー(8月にUNYを会場に開催予定)が ,IMSTEPのホームページにアップされた。
また,プロモーション・グッズ(クリアファイルなど)を作成し,パイロッティングにおける成果検討の重要なデータとなるプレサーベイヘの協力者,セミナー,ワークショップ等参加者,協力者への活用を始めた。

16-3-2. その他業務およびフォローアップ活動について
16-3-2-1. 機材管理・メンテナンス
無償およびプロジェクト供与機材,専門化携行機材で導入された機材について,インドネシアでは流通してないスペアパーツをフォローアップ期間中の専門家携行機材で対応する事とし,UPIについてはすでに手続きを進めている。UM,UNYはリストの作成中である。その過程で機材故障箇所の確定,スペアハーツの明確化などの作業をCPがおこなったが,マニュアルの不在,英語版の不備などの問題もあり,マニュアルの不備については改めて調査中である。当然のことながら機材により自分たちでの修理,互換性のある部品での臨時措置等で自助努力をしている様子も伺えた。学科の機材管理責任者はそれなりに知識・技術・責任感も有しているが,機材の多さに加えて,技術・知識の高いスタッフ(の配置)は十分ではなく,学部による予算措置も十分できないことから管理に困難を抱えている。

16-3-2-2. パイロッティング活動促進
フォローアップ・プログラム開始から1年になるが,前半の半年はプロジェクト終了に向けての作業に比重をおいていたため,バイロティングにあまり多くの時間を確保できなかった。今期半年(2003.11~2004.6) は,パイロッティング視察の頻度を高め,極力学校訪問に出かけるよう努めた。フォローアップ期間でパイロッティングの担当であるタスクチームAと2003/2004第2学期でのパイロッティング活動に当たり確認したことは,パイロッティング授業の後にリフレクションをおこなっており,他のパイロッティング校の教師と授業のレピューを行っている学科があることがわかった。その内容を検証するべく2003/2004の第2学期でのパイロッティングではその点に注意して視察を行った。授業に実験を取り入れ,グループでの作業時間を確保し,生徒の積極性を高めると言う授業スタイルはパイロッティング・クラスで定着してきている。それはパイロッティング活動にかかわる教師,大学講師ともに認めているところである。
授業研究については,①UPIでのMGMP共同ワークショップ内で行われた模擬授業の後の授業ピデオを使ったレビュー,②UNYでのMGMP 共同事業推進4学科合同Sharing Experienceワークショップ,③UMでの学科ごとのSharing Experience に参加した。これらに参加させていただいて思うのは,①~③の全てにおいて,方法論や実験技術に関心の重点が置かれ過ぎ,一過性の事象から生徒へのかかわり方を学ぶといった視点は薄い。ピデオ内容についてはいろいろな絵を撮ってはいるが,生徒の活動,実験,手先の様子などは撮れていても教師と生徒の相互のやり取りの絵を撮る,という視点がないことが明らかになった。このことから授業研究の進め方についての案を提示し,授業研究に欠かせないピデオ撮影についてもその注意点を作成し配布した。どうしても教師(講師も)はよりよい授業の「マニュアル」を求めがちであり,「固定化したマニュアルではなく,一つ一つの授業の教師と生徒のやり取りから学び,教師間でその事象について検証していくことで,教育の質を高めていく」といった日本人専門家側の考え方との間には相違がある。これは専門家,CPである大学講師,現場の教師側との三者間に相違があるということである。今後は講師と専門家での模擬授業研究を実験的に行い,さらにインドネシア学校教育により即した授業研究の方法の模索と開発を促進できればよいと思われる。

16-3-2-3. 隊員派遣方針の検討
IMSTEPにかかわる理数科教師の今後の隊員派遣ついてJICAインドネシア事務所の教育分野担当所員を中心に,関係する専門家とポランティア調整員とともに検討会を開いた。協力隊員を活用するボランティア事業はJICA事業のプログラム化の中には現状ではまだ含めないことを考慮しつつも緩やかな連携の中でお互いの活動が効果的になり,インドネシア側への成果も挙げられるような新方針を作成した。中学校の理科,それも化学の指導を主目的とした要請として,プロジェクトとも連携しやすい地域での派遣から始める。現在IMSTEP専門化も協力して,新方針に沿った隊員案件発掘を行っているところであり,IMSTEPの対象地域であるジョグジャやマランでの案件形成が期待されている。

16-3-2-4. プロジェクト経費
JICA側は2004年度約1000万円の現地業務費を予定している。インドネシア側の予算措置はCPIU(インドネシア側政府機関である高等教育総局が設置しているプロジェクト実施支援ユニット。予算の管理を行う。)側が予定しているのは約3倍の額 (2,000,000,000 ルピア)であり,ここから3大学に対してもそれぞれに550万円 (370,000,000ルピア)が措置される。3大学への予算にはパイロッティング活動費,共通教科書作成促進費,調査・評価のための予算が含まれ,ナショナル・セミナー,MGMPとの共同事業費(約200万円)については別にCPIU から各大学に措置される。(ナショナル・セミナーについては基本的にCP側がすべて経費負担の予定である。JICA 側はプロモーション・グッズと,3地域のバイロット教師を講師としてセミナー参加する場合の旅費の一部を負担する可能性がある。)

16-3-2-5. 他の旧教員養成大学9 校へのプロジェクト成果の普及
高等教育総局内の教員訓練局の依頼によりIMSTEPの成果を他 の LPTK に普及するべくその成果の内容と普及の方法についてIMSTEP内で検討会を続けている。その中で出てきたのが,カタログ作成である。IMTEPの成果を提示しつつ,その内容をLTTKの講師たちが学ぶことができるように,大きく分けて3つの普及の方法(ワークショップ,IMSTEP支援3大学での研修,IMSTEP支援3 大学から専門家派遣)による1週間から3ヶ月まで幅広い13のコースを提示している。今後訓練局との刷り合わせのあと実現化すればインドネシア側による普及の道筋ができることになり,大いに期待される。

16-3-2-6. 短期専門家の役割の明確化
できる限り現場に即した要請となるように留意しつつ,派遣される専門家にとっても効果的な活動が短期間でできるように検討を重ねた。日本の大学教員が対象な場合,派遣可能な時期がどうしても限られるが,その派遣期間を有効に使うために,今年7月~9月に要請される短期専門家については,授業研究や校内研修に特化したワークショップの開催を主な目的とすることになった。

16-3-2-7. カウンターパート研修
カウンターバート研修ではIMSTEPの活動に還元できる内容とともに研修者の人選が重要である。研修内容や人選については,専門家からのサポートをするも学部に熟考してもらっている。人選は済み,研修内容については研修後どのようにプロジェクトに還元していくかについてもタスクチーム,学部長,LC(Local Coordinator)とも相談して明確化をはかるよう作業を続けている。

16-3-2-8. 3大学の連携強化
それぞれの大学でのプロジェクトの成果は,3大学間でシェアされてその成果がより生かされると考えられるが,それぞれの大学毎の経験のみで,3大学間で共有するという意識が弱い。それぞれの成果を発展,普及させるためにはさらに共有を強めていくことが重要と思われる。3大学間の連絡・連携の現状について遅ればせながらアンケート調査を行い,できうる取り組みを進めたいと考え,現在準備中である。調査の方法と調査票のドラフトを,現在3大学に配布し調査に関する意見を求めている。

16-3-3. 今後予定されているイベント
1)UPI
6/14~  NTT 州からの教員トレーニング (1ヶ月)
6/19  教科書のTRY- OUT の今セメスター結果データ収集
7/10  パイロッティング活動紹介のための一般公開セミナー
2)UNY
6/23,6/24 MGMP ワークショップ
8/2,8/5 IMSTEP ナショナル・セミナー,WGC 開催予定
3)UM
6月第3 週(もしくは第4 週)マラン市中学・高校の校長へのIMKSTEP(パイロッティング活動)紹介ワークショップ開催予定
4)3大学合同
6月 教員養成局との共同事業推進検討会議
6月または7月 JCC開催
8月 ナショナル・セミナー開催

久保木氏は,業務について,フォローアップ・プログラムの業務調整 だけではなく,「パイロット活動の促進」業務が大きくなってきているとしている。それは久保木氏自身も感じておられるように,フォローアップ・プログラムが以前にも増して評価されてきているからであると思われる。

16-4. パイロッティング活動2005-授業研究改善支援と次期ステージの検討

16-4-1 派遣の目的等
筆者は2007(平成17)年8/16~同年8/26,指導科目:理科教育で派遣された。この時の派遣の目的は,「プロジェクトの活動で成果をあげつつあるパイロッティング活動について,理科教育の視点から実際の教室現場における参観・指導を実施すること,ならびに,大学教員と学校教師の間での授業計画や,教育内容・方法・教材の設定・作成,さらには授業後の反 省検討に関する支援を行うこと,また,他大学におけるパイロッティング活動の普及も図ることとする」であった。

具体的な活動内容は,
・教案,教材,実験方法,教授方法に関する各大学ならびにパイロット校での巡回指導。
・現職教員訓練機関・教科別教員研修会との共催セミナーにおける講義,実験指導。
・フォローアップ協力全体の総括を行うとともに,次期フェーズに向けた提言を取りまとめる。
であり,期待される活動の成果として,
・パイロッティング活動の質が向上する。
・現職教員訓練機関の数学教育能力が向上する。
・フォローアップ,協力期間の総括および次期フェーズヘの提言
が期待された。

さらに,派遣前に現地から届いた日程表に附属の活動内容とイベントは次の通りである。
1) 3大学の理数教育学部長らから,IMSTEPの実施状況を受ける。
2) 授業研究に関してカウンターパートとミーティングを開く。
3) CPと共にパイロッティング・クラスを参観・モニターし,事後に学校教員,大学教員,専門家らと意見交換を行なう。また,学校教員,大学教員,専門家らと共にパイロッティング・クラスのビデオを視聴して意見交換を行なう。
4) 授業研究の事後の意見交換を踏まえて,イ国における授業研究を含む。学校における現職教員教育の方法について議論する。
5) MGMPと共に授業研究活動をモニターする。
6) 大学教員と授業研究について議論する。
7) 次の活動について議論する。
8) 8/20 開催のNational Seminar-Mathematics (UPI)に参加する。

日程は次の通り。
8/17(水) 夕刻,Jakarta 着
8/18(木) JICAインドネシア事務所,教育省初中教育局,Central Project Implementation Unit 訪問。 Bandungへ移動
8/19(金) FPMIPAにて専門家および正・副学部長からIMSTEPの進行状況の説明を受ける。
8/20(土) National Sminar(数学)参加,プレゼン準備
8/22(月) UPIにて活動。パイロッティング学校にて授業研究を視察,事後の反省会参加,数学のビデオを視聴して討論。
8/23(火) 学校訪問
8/24(水) プレゼン「The Latest Development of Science Education in Japan」実施
8/25(木) Jakartaへ移動。JICA事務所へ報告,帰国便に搭乗
8/26(金) 朝,成田着

16-4-2. 主要関係者との面談(橘氏,神田氏,ウトモ氏 )
8/18(木),齊藤英介氏と共に,橘秀治氏,神田優美氏,ウトモ氏を訪問した。
1) 橘秀治所員 (JICAインネシア事務所)
JICA ジャカルタ事務所にて,橘所員と次のような点について,面談した。
・次期案件成立の経緯
・インドネシア側の教育の動向。教育大学現職教員質保証局設立の動き。
・次期プログラムでは,宗教省管轄下にあるイスラム寄宿塾(プサントレン)の学校も対象に含まれることから,新プログラムに対する反感の予想について話し合ったが,その心配は理数科中心と言うことで懸念はない。
・US-AIDが開始されたと思うが, 協力大学教員が IMSTEP との方針の違いで, 混乱を来す恐れがあるがどうか。US-AIDの事務所はジャカルタにあるので,後日,IMSTEP 関係者が情報収集に訪問することにする。面談対象者は Jill氏にお願いしたい(後日,齊藤英介氏が訪問した)。
なお,本専門家には,本派遣の業務の一部として,現職教員研修のあり方, L P M P(研修センター)の将来像,フォロウアップ・プログラムの2年間の総括などが期待された。
2) 神田優美専門家(国民教育省初中局)
国民教育省初中局神田優美専門家を訪問した。次のようなことを話し合った。
・次期プログラムにおいては,外島への拡大として,これまで考えてきた北スラワシのマナドから南スラワシのマサッカル(ウジュンパンダン)に変更したい。
・教員の質の規準がでた。教員資格はさらに向上した模様(停電のため,資料のコピーができず。)
なお,神田氏訪問の後,高等教育総局の平中英二氏を訪問する予定であったが,停電のために訪問を中止した。
3) ウトモ氏 (CPIU)
ウトモ氏に 12:30 の訪問予定を取り付け,訪問した。
昨年度,ウトモ氏を訪問して,はじめて US-AID について知ったので,その後の動向について同氏が詳しい情報をお持ちではないかと思って伺ったが,US-AIDは進捗中とのことで,新しい情報の入手は無かった。ジャカルタに US-AID の事務所があるとのこと。
・INSTEPに対する評価と問題点
「他のドナーは調査してそれきりであるが, I MSTEP は 何度も交流してくれる」とのことで,ウトモ氏よりIMSTEPの長期的コミッメントに対して謝意を表された。
・ユネスコ出向されていたバンバン元高等教育総局長が1 ,2 年前に帰国され, いまだに IMSTEP に関心を抱いておられるとのこと。
・ウトモ氏は,IMSTEP は多くの成果品を出したが,その活用の普及があまりなされていないのが気になるとのこと。
・過去の教員研修プログラムなどに関する資料4点を頂く。ウトモ氏の依頼により後日,コピーをUPI の理数教育学部長Smar Hendanaya 氏に手渡した。資料の内容については,後述する。

16-4-3. 授業研究説明会 (Socialization of Lesson Study, Lab school in UPI) への参加
8/19(金)の夕刻に,バンドンに到着した。8/22はUPIへ出向いた。8:30 に理数教育学部長Smar 氏に挨拶。Smar 氏は午前中会議のため ,改めて 13:00 に「授業研究説明会」ヘ一緒に赴くこととした。予定より少し遅れて学部長スマル氏,化学科副主任アセップ氏とともにキャンパス内のlab schoolsに出向く。これらの学校は,これまでUPIの附属校ではなかったが,昨年度より附属校になったという(優秀な子が集まってはいないという)。小規模ながら,幼稚園から高校まである。中学校で校長らと挨拶したあと, 13:30頃から3 時少し過ぎまで,高等学校の理科室で,「授業研究説明会」に参加した。標題は,“Socialization of Lesson Study, Reformasi Pendidikan melalui Lesson Study untuk mendukung implementasi Kurikulum 2004″ であった。これは,「授業研究の社会化, 2004 年カリキュラム実施に基づく授業研究を通した指導法の改善」というような意味であると思う。Lab schools の中高の理数科教員と理数科以外の中高の教員が併せて40 名程度参加した。説明者側には,スマル氏とアセップ氏, 他 U P I の大学教員 2名(附属中学校の運営委員, お一人はDr. H. As’aridjohar, M. Pd. 氏で, 他の教員の方は息子さんが一橋大学の修士課程在学中とのこと)および本専門家が並んだ。スマル氏とアセップ氏がプ ロジェクターをつかって説明した。学部長の説明の中で ,去年UPIを訪問した際に,本専門家がUPIでの講演の中で話した「授業を見る視点」が使われていて,うれしく思った。1 時間半程度にわたり,パイロッティングの趣旨や方法,効果などについて熱心に討議が行われた。筆者にはいくつかの質問があった(日本語学科の教員からの日本語による 質問もあった)が,ここでは附属中学校長からの英語による3点の質問を紹介しておく。
①日本におけるカリキュラムの実施はどのようなものか?
(答)国が学習指導要領をつくること,中央教育審議会や教育課程審議会などで方針が打ち出され,その後,教科書作製やいろいろなカリキュラム普及活動がなされることなど,概要を説明した。
②教授法 マスターリー・ラーニングは日本ではどうか。
(答) 「マスターリー・ラーニング」(完全習得学習)はシカゴ大で1960 年代に研究された古い話である。日本ではマスターリー・ラーニングという言葉は今はほとんど使われていないが,その考え方は日本の教育にもある。日本では,学習内容は「学習指導要領」という規準がある。生徒にそれらを習得させようとする考え方は,マスターリー・ラーニングと同じと考えられる。
③ 授業研究の発展の見通し(Scope of Development of Lesson Study)
(答)理科では,プロセス・スキル,観察・実験技能の向上,科学的概念の定着,科学的なものの考え方の育成,さらに持続可能な発展のための科学教育カリキュラムの開発や科学的リテラシーの育成など,先はいくらでもある。次のようなことを話した。
『科学的リテラシー形成のために,環境学習などの基礎となる粒子概念など,一生を通じて使える基本的知識を身につけることが肝要と考えられる。例えば「拡散」現象は,汚染物質の散らばりを防ぐなど環境保全や持続可能性の追求において,市 民として知っておかなければならない基本的な知識の一つである。この現象をよりよく理解するためには,「物質はごく小さな粒子から出来ている」という,粒子概念を把握しておくことが望ましい。しかし,そこには,微粒子(原子・分子)などがわかるか」という認知的な課題も潜んでいる。
また,ジョージア州で開発が進んでいる科学教育プログラムは,幼小中一貫のプログラムである。その視点も重要であるが,特に注目に値することは,学力立方体 である。学力立方体とは,内容,思考習慣,理解と行為のための手段 (vehicle for understanding and doing) から構成されている。この「理解と行為のための手段」は, これまで理科教育ではあまり見られないものである。それは「システム」などを含んでいる。このような,より根源的・基本的知識や考え方の枠組みとでもいうべき ものが持続可能性社会の科学的リテラシーの一部になると考えられる。日本においても,このような側面をよく研究し,将来のカリキュラムに導入すべきと考える。粒子像以外にも,持続可能性をささえる基本概念を小学校から少しずつ導入することを考慮すべきである。』
説明会の後, socialization についてスマル氏やアセップ氏から聞いた話しであるが,パイロッティングについての説明会の要請が大学周辺のみならず,かなり遠方の地方からもあり,要望に応じて説明にゆくとのことである。これには学部長も自ら参加する。その予算は学部から支出される。Socialization に対する「反感はなし」などの話を伺った。

16-4-4. 数学ビデオ・コンフェレンスヘの参加
8/22(月)午前中に, UPIの会議室で「数学ビデオ会議(video conference) 」が開催され,それに参加した。その後, 数学教育学科主任の Yaya S. Kusumah 氏(群馬大にて研修経験有り)と20分ほど面談した。参加者は, 学校教員のみならず,地方の大学教員も含まれていたようであるが, 人数は 40 名くらい。講師陣はヤヤ氏,アセップ氏,久保木氏である。ビデオ視聴後,参加者の一人から,「このビデオを活用した授業研究は,新しい授業モデルの普及であるのか?」という優れた質問がでた。ヤヤ氏の解答は,そういう面(新しい授業モデルの普及,例えば「発見的授業法」など)もあるが,通常の授業の改善という面もある。本日お見せしたのは,後者である」というものであったが,その通りと思う。
筆者の印象では, ビデオ撮影自体は,NHKの番組を見るように見違えるようによくなった。以前は教室全体を漫然と撮影するだけで,個々の生徒の動きが見えなかったが,その点は改善された。しかしビデオ自体は,少し退屈である。授業を多少省略してあるが,ほとんど全てを見せている。漫然とビデオを流すだけで冗長な部分が多い。視聴者も少し退屈に感じているようであった。これは,何をやっているのか,目標が参加者に明確に伝わっていないことの証左とも考えられる。全体的に授業研究の意欲は認められるが,その方法は一層の改善が求められよう。実践面でどこがこれまでと異なるのかなど,違いを明確に説明したり,内容的に魅力的にする必要があると思う。このままであると,いずれ参加者は期待はずれとなり,減ってゆくであろう。
「ビデオ・コンフェレンス」の手法が,理科でも使えるかという問題がある。理科では 観察・実験の方法をじっくり撮影する必要がある。観察・実験に関しては,生徒の不慣れな動きを撮るよりは,教員が模範的に示すモデル的な動きを撮影して普及する仕事を,授業全体の改善よりも先に行う(あるいは授業研究の中で行う)べきであると思う。かって,神志那専門家の作成したビデオ実験教材などが活用できるのではないかと思う。
会議の後にYaya氏と次の点について話し合った。筆者の質問とヤヤ氏の回答を記す。
ア)ビデオ撮影は,改善されたと思うが,どうか。
『確かに技法はよくなったと思うが,しかし,UPIとしては,まだ技法の専門家派遣を欲している。その事情はこうである。昨年,日本から2人の専門家が派遣された。お一人は3週間,他の方は1週間の派遣であった。3 週間滞在された専門家からは,劇をイメージした撮影の手法を学び,非常に参考になったが,授業研究で教室の中で起こっている生徒の活動という面が十分に撮影できるように更に指導を受けたい。またもう一人の専門家による技能の指導は,実質2日程で短すぎた。したがって,将来,更にこの分野の適切な専門家の派遣をお願したい。』
確かに,日本人専門家もいうように撮影の哲学も大切である。しかし,イ国側が問題にしているのは,機器操作のレベルの問題ではなく,教室内で起こっている現実の動きをいかに捉えるかというより高いレベルの問題である。もし,JICA 次期案件が実施されることになり,またそこで,授業研究が行われる場合には,さらなる適切な専門家の派遣は検討に値すると思う。
イ)この授業研究は IMSTEP が終了した後, JICAの次期案件の有無にかかわらず,イ国側で拡張できるか?
『そうすることが,我々 (UPI教員)の責務であると思うが ,JICA の支援がなければ, 授業研究は立ち消えになる恐れがある。授業研究ではいろいろな費用が必要である。現在の所は,費用は DIKTIからでているが, それは JICA の支援があるからであり,それが無くなれば,DIKTIからの予算もなくなるであろう。また,学校教員も,JICAの支援によって刺激を受けている。』
ウ)もし,JICAの次期案件が実施される場合, 授業研究を行うとすると,その中核は3大学の教員スタッフは確保できるか?
『これは大きな問題である。「授業研究」の説明会開催の要請が多い。これに対応していて自分の学部長としての仕事ができず,遅滞してしまうことがあり困っている。教員が列をなして自分を待っていることもしばしばである。』
ヤヤ氏はパイロッティングの理念はよくわかっておられるし,日本に派遣されて,日本の学校の授業もみておられる。こういう人を核にして,中核部隊を作らないと,さらなる 普及はむずかしくなると考えられる。次期案件等で,授業研究をより普及するには,どの程度広めるかによるが,全体的にはクラスター方式であるが,指導層に一部カスケード方式を取り入れた混在方式が現実的と考えられる。

16-4-5. 授業研究(数学, レンバン第1 中学校)への参加
数学教育学科主任のヤヤ先生,数学教員,久保木氏,西谷先生と奥様と共に,レンバン国立第 1中学校を訪問した。同校は,UPIから車で30~40分位。筆者は,この学校ははじめて訪問した。ヤヤ氏によると,非パイロッティング校であるが,UPIとよい関係を保っている学校であるということである。校長は Ors. H. Wawan Kuswandi, M. Pd.氏である。校長の話によると,教師数75名,生徒数1,300名の大きな学校で, 1学級の生徒数は 40名~48名, 1週間当たりの授業時間数は40 時間 (1 時間は45分),7:00~14:00 まで。校長の人事は教育省 (DINAS) が所管し,任期は 2~4 年である。
午前10:25頃から45分授業を2コマ続きの中学1年数学の授業を参観する。教員は御年配の Setiaman 先生。10人の生徒が欠席し,33 名が在籍。欠席が多いなあ」と思う。これが常態であるとすれば,よく休む生徒は,数学のような積み重ねが必要な学習は支障を来すと思う。このような点が,国際調査でイ国の生徒が低い成績を取る原因になっているかもしれない。
授業内容は,整数のかけ算・割り算から分数のかけ算や割り算へ進むものであった。分数の積や商の意味はほとんどの生徒は的確に捉えているように思えたが,それもそのはずで,小学校の算数の復習的な面が多かったようである。授業の特徴は,前者は1次元の数直線,後者は面積で説明していたことである。また,グループ討議や生徒による黒板での解答などがあった。グループ活動では, 何を目的としているかわからず,ただ漫然と集まって,ほとんど議諭もないグループもあった。
言葉がわからないので正確な事はいえないが,数学的な考え方については,教師が話し,生徒間の議論が薄い印象である。年配の教師が張り切っているので敬意を表すが,授業法自体には新味は感じなかった。
授業内容に関する感想は,西谷氏のものとほとんど同じであったので,ここでは記さないが,この授業研究に参加して,教育改善の戦略性について感ずるものがあった。この授業で扱った数学的概念については 西谷先生が指摘したように,分数の積や商の学習のところで,2 次元の数直線 (2次元ベクトル)には話がゆかなかった。また,筆者は数学教育の専門家ではないが,生徒に見せてもらった数学の教科書はまるで問題集で,数学的考え方やその展開があまり書かれていない感じである。教科書に新しい考え方が書いてあれば,それは局所的に実施する授業改善よりも急速に全国的に広がるわけであり,このような問題は,教科書改善による方が効果的とも考えられる。
同行したUPIの数学担当教員(タスク・チーム A ) の Ms. Nurjanah 氏と話をした。同氏は2001年からパイロッティング活動に従事している。SMP-1, SMP-12, UPI-Lab schools, SMA-1 Lembang, SMA-9など,いろいろな学校の授業研究を行っていて多忙である。「2004 年からの中学校数学の新カリキュラムの考え方はまだ固まっていないが,生徒が自分の言葉で表現できるようになることを目指している」という。新カリキュラムは公布されたと思うが「考え方はまだ固まっていない」とはどういうことなのか不明であったが,確かめずそのままとなった。
なお,今回のイ国派遣においては,理科の授業研究は計画されておらず,理科の授業参観はなかった。

16-4-6. 講 演 (The Latest Development of Science Education in Japan)
8/24, UPI 理数科棟内の講堂にて,理数教育学部の教員約 40名を対象に, 標記の講演を行った。講演題目は,当地に赴任してから,理数教育学部長から依頼されたものである。日本から持参した資料に基づいて,主に 8/20(土),8/21(日)でスライドを準備した。時間がなかったため,スライドのみ作成し,配布資料は作成できなかった。スライドはCDにして学部長Smar氏に残してきた。明らかな文字のミスなどを修正したものを,本報告書の付録に添付した。
講演は 1:40~2:30 まで, 質疑応答 15分 2:45 であったと思う。講演内容は,
1) 日本における科学教育研究の動向
2) 未来の理科カリキュラム研究
3) 高校カリキュラムについての論争
4) 構成主義的観点に基づいた理科教育-小学校理科,概念定着の重要性-
5) 中学生の認知レベルヘの配慮
の5点であった。1)~3) は日本における科学教育(理科教育の他, 算数・数学教育, 技術教育,教育情報などを含む)の動向,4)~5) は筆者の研究室所属の学生の研究の紹介である。概要と目的は次の通り。
1) は,日本の科学教育学会の昨年度の年会のプログラムなどを参考に,科学教育について,日本ではどのような研究が行われているのかを大まかに紹介した。参加者に多彩な研究領域があることを理解して頂きたいと思ったためである。
2) については ,本専門家が研究代表者を務めた科学研究費研究「21世紀中葉の社会・学術をイメージした科学教育のガイドライン」(下條 2005)や,同じく本専門家が主査を務めた(財)教科書研究センターにおける科研費研究「小・中学校の教科書の読みやすさ・わかりやすさに関する調査研究」(下條・他 2004)の成果(米国調査結果を含む)を交えて話した。
授業研究,評価法,教材開発などの他,生命科学の台頭への教育的対応,ユビキタス社会への変化, 持続可能な発展などへ対応できる科学カリキュラムの開発など ,21世紀に対応する科学教育のための研究は,大学が中心にならないと行えないようなレベルの研究である。また,教科書の厚さ(日米の比較,米国の教科書は日本には向かないこと。アンケート結果など),大人の論理による記述などの問題点についてもふれた。未来のための科学カリキュラムや教科書研究の重要性を訴えたかった。
3) は,当時,日本で問題になっている高校1年生の必修理科の新設科目に関する動きを紹介した。総合的理科のあり方については,イ国の方々も関心がおありと考えたためである。日本では,現在,文部科学省の中央教育審議会の議諭において,「必修理科」の履修内容で意見が割れている。日本の各学会でも問題にしているが,対立した意見をだしている。「必修理科」は高校の理科離れと学力低下を食い止めるために浮上してきたもので あるが,その中身について,生徒が必ず学習すべき内容は,広い科学的教養か,あるいは学習がハードでも後で役立つ基礎かということである。戦後,米国では,市民の科学的教養を重視するか,専門家養成を中心にするか議論があった(理想主義 (visionary) と専門家養成主義 (professionalism) の対立)。日本でも似た状況が現れているとも考えられる。確かに,前者の立場では,力がつかず高等教育に結びつかない恐れがある。後者は学習者の大部分がますます理科嫌いになる危惧もある。解決のためには,深いカリキュラム研究が必要になると思う。
4) は, 小学校の例であるが,構成主義的授業の具体例,科学概念の定着のむずかしさなどを示すために話した。
5) は, 中学生の知能の発達段階のレベルに合致した理科教育課程の話である。以下のような話をした。英国では学校の教育内容が知能の発達段階より高めという研究結果がだされた(下條 2010) 。本専門家の研究室でも,中学生の知能の発達段階について,形式的操作期よりも具体的操作期に近いことが示されている。英国におけるこの問題に対しては,「 内容を易しく」する対応と「こどもの認知発達の促進」という対応の2つの対応があったが,「科学教育を通した認知的加速:CASE (Cognitive Acceleration through Science Education) 」という研究では,後者を選択して成功をみた。CASE の場合は, 認知発達を促進するプログラムを週に一度,通常のカリキュラムに挿入して実施しているようである。これは,日本でも例えば,総合的学習などのなかで「学び方学習」などの名称で既に実施している中学校もあるが,例は少ないと思う。
CASEの理論的背景は,ピアジェの知能の発達の理論(発生学的認識論)とヴィゴツキーの発達の最近接領域理論(Zone of Proximal Development) といえる。本質的な点は,子どもに知的発達に合致した学習をさせるのではなく,教師などの介在を踏まえた上の段階をめざす学習をさせることと考えられる。将来のカリキュラム構築に当たっては,CASEと同様な認知的発達を促進するプログラムのカリキュラムヘの組み込みが必要と考えられる。また,「発達の最近接領域」についての科学的かつ具体的な研究が重要と考えられる。』(下條 2010)
質問は,数件あったが,主なものをあげる。なお, 化学の教授 Prof. Dr.Mulyati Arifin, M.Pd.氏からは,本専門家が未来の科学カリキュラムを研究(科研費研究)していることに敬意を表する旨の発言があった。質問は,
・日本における総合的理科について,中学校から導入しているのか?
・カリキュラムと教科書の関係,
・教科書研究の成果の内容を知りたい,
などであり,適切に答えたつもりである。
このような質問は,UPIの教員諸氏がカリキュラムに関わる基本的・本質的な事柄に関心があることを示しており,授業研究以上のものへの関心があると感じられた。この点は,教育改善の持続可能性の点で重要であり,別のところで触れたい。また,未確認であるが,総合的理科科目の設置は,イ国でも議諭の対象となっているように感じた。教授クラスになると,国家レベルの教育関係の委員会で協力することもあるのではないだろうか。すると,このような問題意識を持つことだろう。
なお,講演の後,学科会議が開かれたが,久保木氏が残って聞いていた。学部長からスタッフの教員に向けて,「授業研究をこのまま進めよう,場所はキープしよう,半年後新プログラムが開始される予定がある」などの話があったようである。

16-4-7. フォロウアップ・プログラムの評価
授業研究 (lesson study) は,IMSTEP後半部 (2000年10月以降)に徐々に本格化した。多くの課題がある中で,授業研究に活動をしぼってきたと思う。現在,学部長らが先頭に立って「授業研究説明会」に参加したり,授業研究を推進している姿を見ると,感慨無量である。IMSTEPP 開始当初は,供与機材の活用などの対応で協力 3 大学には時間的にも人的にも余裕も無かったことは事実である。授業研究活動も開始当所より設定されていたが,協力大学内の共通理解も少なく,活発ではなかった。IMSTEP 中間評価で,その点が指摘され,後半の活動では授業研究に重点をおくようになり,現在に至っ ている。事態を打開するために,後半の初期において,日本へ研修にゆき日本の授業をみた大学教員に,授業研究(特に研究授業)の普及を勧めた。例えば,ジョグジャカルタ大学のカウンターパートであった数学教員マルシギット氏などに授業研究を進めたことを覚えている(同氏は,その後筑波大で研修した)。そのときは,はっきりyesとは言わなかったが,その後,授業研究に熱心になったと思う(同氏は,数学教育学の重要性を認識し,その後その分野でイ国内の博士課程に進んだようである。)
ちょうどその頃,構成主義的授業観が国際的に広まりつつあったこと,ジョグジャカルタ大学に Action Research(英国の授業研究)に詳しい教員(お名前は失念)がいらしたことなどで, 授業研究の理念がはっきりしていたことが幸いであった。また,UPIにも「メタ認知」や「教育工学」に詳しい方もいた。ただし,理論と実践が結びついていなかった。それがIMSTEPによって可能になりつつある考えられる。本専門家は「授業研究においては,実践だけであると進歩は無いし,理論だけで実践無しも進歩はないと考えている。この事情は,自然科学プロパーと同じであると思う。
IMSTEPにおける授業研究は,日本の派遣専門家・調整員諸氏,青年協力隊の隊員諸氏, 日本研修組を含む3大学教員の努力,より良い授業を実践したいという学校教員の渇望,3大学トップの授業研究の重要性の理解,イ国教育省のバックアップなど大勢の支援と努力により進み始めた。しかし普及には,IMSTEP後半部およびそのフォロウアップ・プログラムの2 年を含めて4 ,5年かかったというべきであろう。現学部長 Smar 氏も,新学事担当副学長のウタリ氏も,IMSTEP開始当時に日本にお呼びして ,日本の学校の授業を見て頂いているが,そうしたことも普及に弾みをつけたと思う。
パイロッティングにおけるイ国の教員の態度も,相互のアドバイスを個人攻撃とみる態度から,遠慮せず思ったことを発言する「共に学ぶ」態度になりつつあるように思う。
これまでにも報告した通り,JICAが授業研究をサポートしているということが元気の源である。まだ局所的ではあるが,「研究授業」の教育文化が育ちつつある印象を強く受けた。過去2 年間のフォロウアップ・プログラムの活動は,授業研究を3大学で定着させ,外へ知名度があがってきた段階に至ったと思う。授業研究を支える大学教員も増えた。しかし,研究授業は永遠のプロセスである。質的向上はまだ入り口である。日本側は,マンネリ化や遅滞しないように,今後は質的向上のガイド役が求められよう。
また,筆者が昨年度の報告書で指摘した2点,すなわち資格付与型の現職教員研修はあいまいのままとなっていることと,授業研究のみを重視して学校に於ける教育環境の整備 (1学級の人数,観察・実験器具の整備など)をそのままとすることに,今後どう対応するかなどの課題が残っていると思う。

生徒中心の授業には限界がある。50名以上を対象とする構成主義的授業は無理である。構成主義的授業は,生徒一人一人のもつ素朴概念にまで立ち入り,評価もポートフォリオ(ワークシートやレポートなど)まで評価しなければならない。しかし,50人規模の教室では,教師は個々の生徒にまでとても目が行き届かない。これはいわば,先進国の授業法といえる。インドネシアの場合には,これまでは,あまりにも教師中心にすぎた。しかし,1学級の生徒数が50人程度でも可能な生徒中心のインドネシアにふさわしい授業法を編み出すことが望まれると思う。この点は日本でも共通する事情がある。パイロッティング校では,明らかに効果はでていると思うが,まだ明確な授業法として課題は多いと思う。パイロッティングと,授業の科学的な分析を積み重ねてゆくことが大切と思う。
今回は理科の授業研究はみる機会がなかったが,理科では観察・実験の方法の向上が基礎である。イ国の経済発展のためには,理科や数学が重要であるが,理科は分野の幅も広く,観察・実験もあり,その改善のための努力が他の教科より一段と必要とされる教科であることを,関係者によく認識して頂くことが大切である。
理科のパイロッティングでは,観察・実験を必ず導入していた点は良かったと思う。単なる観察・実験法の普及も勿論意義があるが,観察や実験を授業に組み込んで普及することは,それらが授業の中にいかに組み込まれ,またそれらが子どもの自然認識や人工世界の認識に大きく寄与するということが,パイロッティング参加者に理解されるからである。このようなパイロッティングの形態は今後も続けてもらいたいと思う。観察・実験を授業に組み込みながら普及するというこの方法は, IMSTEP特有のもので, 教師の関心をさそうと思う。
なお,パイロッティング参加者や研修者の観察・実験技能の向上は,少なくとも数ヶ月滞在する専門家が機材を確認しながら行う必要があると思う。ウトモ氏から提供された文 書には,観察・実験の重要性が書かれておらず,残念である。
ウトモ氏が指摘するように,成果物の活用は,本フォロウアップ・プログラムの中に入っていたかどうか不明だが,散逸する前に,整理して活用の路や改良について検討し,次期プログラムに加えるとよいと思う(これはかなり時間がかかる作業と思われる)。ここでの「成果物」とは,中高等学校の理数科の授業研究で活用されうる教材を意味する。

16-4-8. ウトモ氏提供の資料の分析
前述したように,ウトモ氏訪問時に, 以下の4点の資料を提供された。内,以下の①~③の3 点の資料は,世界銀行発行の資料で“Document of The World Bank for For Official Use Only Report No. 15501-IND Draft Confidential Staff Appraisal Report Indonesia East Java/NTT Junior Secondary Education Project May 9, 1996 “からの抜粋, ④の資料はOECD発行の“TOMORROW’S SCHOOL, 2002″ からの抜粋である。以下,比較的目立つ点について簡単に述べる。
① INDONESIA East Java and NTT Junior Secondary Education Project TEACHER TRAINING
・背景:教師教育プログラムは発展してきたが,授業法は旧態依然として教師中心であり,カリキュラム内容,実施メカニズム (delivery mechanism) および研修プログラム管理の 3点の改善が必要という背景に立ち,研修の実施(delivery)と管理について,地域別に2つのモデル,「PKG モデルC」並びに「MGMP」に言及している。
・研修プログラム改革:現職教員研修活動の活性化,特に生徒中心の授業への転換に注意を喚起している。研修指導陣として,教科教育関係の大学教員を確保し,また教科教育 関係の国際コンサルタントも考慮する(イ国語を使えること)
・研修の実施と管理:孤立した学校に対する県レベル(provincial-level) のモデルである「PKG モデルC」で実施し, 都市部およびアクセスが容易な地方の学校 に対しては「MGMPモデル」で対応する。
•「MGMPモデル」では,クラスター方式の教員研修を展開する。
「クラスター法式」による教員研修を考えていることが着目に値する(理由は書かれていない)。また,研修の指導者として,教科の基礎としての自然科学の専門家ではなく,理数科という教科の指導法など,いわゆる教科教育法の専門家を国内外に求めていることがわかる。
② INDONESIA East Java and NTT Junior Secondary Education Project, TERMS OF PREFERENCE FOR THE SCIENCE EDUCATION STUDY
プロジェクトの概要が,研究,方法,成果,準備・組織化・モニタリングにわたって述べられている。研究目的に,「毎日の基礎的な科学的基礎を子どもに提供」とある。特に,「理科における子どもの自然認識,問題解決,科学的態度についてのモデルのインパクト」があげられており,構成主義的アプローチなど新しい授業研究の導入を強く望んでいることがわかる。研究の方法論 (methodology) において,「認知発達や問題解決スキル」および「態度」(科学的態度と思われる)を依存因子(dependent variables)とし,それらを継続的に測定する尺度(measures)の作製について言及している部分が ある。これらの尺度開発は,国際的にも容易な問題ではなく,研究途上にある課題である。いずれにしろ,イ国の研修においても,定量的な科学的な評価法の導入が視野に入り始めたと言うことができよう。
③ INDONESIA Central Indonesia Junior Secondary Education Project,INSERVICE TEACHER TRAINING STRATEGY
PKGプログラムは,過去20年以上実施されてきた。1980年にはじめて理科教師を対象にされた。その後,1080 年代に理科以外の教科(数学,英語,インドネシア語,地理)にも拡大された。このプログラムは最初の5年間はUNDP/UNESCO によって支援されたが,1984 年以降はイ国政府と世銀の共同プロジェクトであった。
このプロジェクトの特徴は次の2点である。①研修センターでのin-service trainingと研修参加者の学校へのfollow-up visits, および,②教員養成大学教員が教科内容の学習に実質的な寄与をしたが,実践面の研修や学校訪問は,熟練教師に任されていた。
研修の開始前に,講師陣はマレーシア,シンガポール,英国,オーストラリアで特別に設計された短期コースを受け,さらにその一部は長期の研修を海外で受け,現在では80名を超える者が,教科教育法で修士の学位を取得している。
PKGプログラムのモデルは, いくつか変遷してきた。「PKG モデルC」が最も最近のモデルである。
最初の 5 年間の活動のレビューがなされた ( 1984 UNDP/UNESCO PKG Science Evaluation) が,ア)指導者陣の人的資源が確保されたこと,またイ)都市部とその周辺の地域では授業は改善されたが,それ以外の地域では,あいかわらず教師中心の知識伝達が主な授業形態となっているとしている。その後の評価においても,実施方法,管理,経費,コース内容,フォロウアップの欠如,学力評価法(入試や国際学力評価問題の80%以上が多肢選択方式の問題であって単なる暗記で解答でき,問題解決など高度なスキルを用いる問題は少なく,改善を要する)など,多くの課題を抱えているとしている。
そしてこの文書③では,状況を改善する政策の提言やプログラムの実施についても述べられている。ここでも,クラスター・レベル・プログラムと県レベルプログラムについて 述べられている。また政策立案において,国内専門家ばかりでなく国際コンサルタントと の協働も言及されている。
④ WHAT TEACHERS NEED TO KNOW AND BE ABLE TO DO, SOURCE:OECD TOMORROW’S SCHOOL, 2002
この文書は,教師の持つべき資質・能力や教師という専門的職業についての力量形成に簡単に箇条書きでふれている。学習内容,学習者についての知識(発達心理など),学習の動機付け,授業法,カリキュラムについての認識,協働学習,反省などについて簡単に 書かれている。
内容的には国際的によくいわれていることで,特に目新しいものはない。
「協働学習」は,社会的構成主義のアプローチの表れとみることができる。「学習者についての知識」は,基本的な部分は教員養成機関で講義や教育実習で身に付く部分が多いと思う。このような教師の力量形成を,教員養成,初任者研修,現職教員研修などを通していかに高めてゆくかが問われるが,イ国における教師の力量形成の各種制度とそれらの相互関連がうまく機能しているかが問題である,また,カリキュラム改善や教科書改善,教育環境整備など他の面への着目が薄いのではないかと思う。
これらの文書だけみると(他にも別の文書があるかもしれないが),イ国政府は,イ国の学校における授業改善に最も力を注ぎたがっているといえる。このような目前の目標に対応することも大切と思うが,「急がば回れ」で,IMSTEPで実施したような学部教育の充実もまた効果的とも考えられる。
また,これらの文書を理数科の立場からみると,観察や実験の重要性にふれていないことはがっかりする。日本で「途上国で観察・実験が不要」というような意見もあるが,筆者はこれは理数科の本質を理解していないとんでもない意見であると思う。日本では「理科教育振興法」という法律までつくって,学校の理科および算数·数学の機材の充実に努めてきた事実を忘れるべきではない。

16-4-9. 理数科教育改善の持続可能性
教育改善が,自国の関係者の力で行われるようになることを,教育における「持続可能性」とすると,持続可能性には,これまでのように,大学の関与が必要と思う。
学校だけにまかせておくと,国際的に容認された新しい理念,それに基づく授業法などが生まれにくい。授業研究の背景にある教科教育に関わる理輪的なことについて,情報交換,世界各国の文献・図書へのアクセス,それらの外国語(英語)で書かれた文献・図書 を読む力,読む時間的余裕などなどなどを考えると,それらを学校教師に期待するのは,一部の優秀な教師を除いて,一般的には無理であろう。それらは大学の教員に任せ,大学教員から学校教員へ,講演等の形で伝えるのが現実的であると思う。また授業研究は,永遠のプロセスである。理論と実践の両方の進歩が求められ,このためにも大学の関与が望ましい。
いずれにしろ,学校だけにまかせておくと,当初はがんばるが,疲れてくるとマンネリ化して活動が消滅する恐れがある。また,質的に壁にぶつかる。このため高等教育機関,すなわち大学が関与し続けることが持続可能性を高めると思う。
授業研究における評価法の開発特に客観化,マイクロテーチングの開発,授業研究の理 論化,プロセス・スキルや高次思考など,今後も大学における教育研究の高度化に協力してゆくことが望ましい。それが研修施設に対してもよい影響を与えると思う。

16-4-10. 研修制度と次期プロジェクト計画
次期の案はかなり固まっている(独立行政法人国際協力機構人間開発部 , 2005) 。 3 大学の教員を中心に,近隣でMGMPの授業研究を進め,また外島の局所へと展開することは,地に足がついた方略であると思う。将来,全国的に拡大する道にもつながると思う。
授業研究の普及は,「クラスター方式」とされているが,ウトモ氏提供の資料にも,かって,その方式が採用されたことが書かれている。 「カスケード方式」の場合,広域的普及に適合するが,普及システムの階層化が必要とされるので,カスケードを構成する研修 体系・人材の組織化,人材育成に課題が残る。また地方分権という状況では少し難がある。 評価は大規模になる。「クラスター方式」の場合には,局所的であるが教員へ直接影響が及ぶ。これまでの協力3 大学の教員を講師陣として活用できる。現状では,クラスター方式の方が適切であると思う。
次期案件では,これまでの協力3 大学(インドネシア教育大学, ジョグジャカルタ大学, マラン大学)のパイロッティング活動経験者(現在,何名くらいおられるのか不明)を,大学と学校のパートナーシップ活動(授業改善等)の核にしてゆくことが必要と思う。日本側は,彼らのサポーター役,アドバイザー役を努めるのが妥当かもしれない。
次期プロジェクトでは,パイロッティングの普及が中心的とされていると思うが,3 大学教員も,これ以上,パイロッティング活動が拡大すると対応できない恐れがある。その ためには,中核部隊の形成が不可避と考えられる。そのため ,LMTPスタッフや地方大学の教員を協力3大学で国内研修させる。研修内容は授業研究,実験法,ビデオ撮影などとする。こうして中核の形成をはかることが望ましいと考えられる。
観察・実験を普及や,これまでに作製されたビデオ教材(神志那長期専門家らが作成し たもの)や UPIで供与機材により作成されたもの(天体教材など)の活用については,ここ2 年間どうであったか不明である。教材のリストをつくって,全国の教員養成大学や 教員研修施設へ普及したいものである。LPMPなどでさらに教材としてrefineする。これは,ウトモ氏の成果品の活用が活発でなかったという批判に応えることでもあると思う。
日本では現職教員に対して,初任者研修や 10年研修がある。また大学と組んで, 地方教育委員会が研修を実施している例もある。イ国でも現職教員教育のチャンネルを増やすことも,今後協力の視野に入れてもよいと思うが,あまり手を広げるよりは,現在ある研修システムを強化した方がよいと思う。

16-4-11. US-AID の動向
今回の派遣当初に橘氏やウトモ氏との面談で話題に上げたUS-AIDは,昨年の報告書でも指摘したように,規模も大きいので,IMSTEPもより明確に特徴をだした活動を展開する必要があると思い,少し気になっていた。
齊藤英介氏が,2005年8月24日,US-AID を訪問し,Jim Hope氏,Jill Gulickson
氏,Tarmi Pudjiastuti 氏らと面談し,その議事録を頂いたので,ここに記録しておく。(以下の『』内は齊藤英介氏の議事録より転載)
『基礎教育経営プロジェクト(Managing Basic Education Project:MBE)に加えて,地方分権化教育プロジェクト (Decentralis ed Basic Education Project: DBE ) を実施中である。DBE の目的は,教育の質,とくに教授学習過程の改善に力点を置いており,理科,数学,英語の改善が焦点である。大学をリソースとして取り入れて,学校現場に対する働きかけを行う。大学はあくまでもリソースとして限定され,本案件における大学に対する投入は行わない。加えて,大学関係者の傭上は,US-AID と大学の契約に基づくものの,US-AIDが学部を特定して行うものではない。また,事務所は大学にも地方政府にもおかず,独立したオフィスを構えている。
DBE は,開始した早々であるが,9月には連携対象大学を決定する。対象州は東・西・中部ジャワ,バンテン,南スラウェシ,北スマトラ,アチェか 7 つからなり,合計25県を対象とする。1県につき2クラスターを対象とする。1クラスターは6から10校で構成されている。
教育改善のアプローチは,IMSTEPと同一であり,ぜひ協調を図っていきたいと考えている。対象学校は,公立・私立学校,マドラサ,プサントレンを,政府の学校カリキ ュラムに則っている限り,平等に取り扱う。またEUや世銀などの他ドナーとも協調を行い,棲み分けを行っている。JICA後継案件における対象県が決定され次第,協調したいと考えている。なお,MBEでは中学校も対象であったのに対し,DBEでは力点が小学校に置かれている。この点も,棲み分けを円滑化するであろう。』
このように, 授業研究は US-AIDと同ーと思われるが, 実施形態(組織)も異なり,IMSTEPとの協調を希望している。

16-4-12. 16節のまとめ
今回の活動を通じて感じたことを以下にまとめておく。
ア)授業研究におけるビデオ撮影技能の向上
IMSTEPフォロウアップ・プログラムでは, とくに授業(数学)の撮り方が抜群に向上した。
イ)授業研究の普及と質的向上
授業研究は,近隣地区や地方からの説明会の要望などもあり,イ国内に着実に普及しつつあると思われるが,教科内容とむすびついた内容的深まり(理科では,プロセス・ スキルや科学的考え方,科学的概念の定着など)が,今後も継続的に高まってゆくことが期待される。国際教育協力の難しさを痛感する。
ウ)成果品の普及
IMSTEP成果品の一層の改善と普及。特に授業研究で活用できる教材の普及が望ましい。
エ)学校の授業改善と次期案件
ウトモ氏提供の資料をみると,イ国は,学校の授業改善を強く求めていると考えられる。したがって,IMTEP後継案件に関して,JICA の案は妥当と考えられる。
オ)「授業研究」を普及する中核の形成
次期案件においては,パイロッティングの普及が中心的とされていると思うが,3 大学教員も,これ以上,パイロッティング活動が拡大すると対応できない恐れがある。したがって,中核部隊の形成が不可避と考えられる。そのため, LMTPスタッフや,地方大学の教員を協力3大学で国内研修させ(授業研究,実験法,ビデオ撮影など),中核の形成をはかる道を考えることが望ましい。
カ)教科書・カリキュラム改善研究への協力
現在の授業改善の形態は時間がかかり,居所的である。これと並行して,教科書改善やカリキュラムヘの協力などを考えることは,イ国全体の教育水準の向上を加速する方策と思われるので,今後機会があればできるだけ協力した方がよい。
キ)持続可能性と大学の役割
学校だけにまかせておくと,国際的に容認された新しい理念,それに基づく授業法などが生まれにくいと考えられるため,今後も大学における教育研究の高度化に協力してゆくことが望ましい。
ク)研修制度の多様化
日本では,初任者研修,10年経験者研修,中央研修,大学と地方教育委員会が組んだ研修など多彩な研修がある。今後,研修の多様化についても検討に値するが,現状では,人的資源の確保と研修システムの新たな構築を考慮すると,既存の研修システムの強化が望ましいと考えられる。
ケ) US-AIDとの協調
US-AIDは IMSTEPと協調を求めている。協調に応ずることが望ましいと思う。

参考文献  〔Ⅴ. フォロウアップ・プログラム〕

・JICA: REPORT ON THE PROGRESS OF THE IMSTEP FOLLOW-UP PROGRAM YEAR 2004,Submitted to The 1st Joint Coordinating Committee of IMSTEP Follow-up Program,FOLLOW-UP PROGRAM,THE PROJECT FOR DEVELOPMENT OF SCIENCE AND MATHEMATICS TEACHING FOR PRIMARY AND SECONDARY EDUCATION (IMSTEP) 2004.
・インドネシア科学技術省・インドネシア科学院:学歴別インドネシアの労働人口率(2000年および2002 年),「ポケットプック インドネシア科学技術指標」,2003年12月,p.8,2003.
・鳩貝太郎,新教育課程実施に伴い,理科の教員に必要な研修は 何か,理科の教育51(10),東洋館出版社,, pp.7-9, 2002.
・久田隆基,教育改革の流れの中で理科の教員に求められる資質能力,理科の教育51(10)東洋館出版社,pp.4-6,2002.
・東京学芸大学理科教育検討会(編),「小学校理科教育法」, 学術図書書出版社,2002.
・UPI:Management Meeting: SUMMARY MID-TERM REPORT, FOLLOW-UP PROGRAM OF THE PROJECT FOR SCIENCE AND MATHEMATICS TEACHING FOR PRIMARY AND SECONDARY EDUCATION, AUGUST 2004.
・学歴別インドネシアの労働人口率(2000 年および 2002 年),「ポケットプック インドネシア科学技術指標 . 2003年 12月,インドネシア科学技術省,インネシア科学院, p8, 2003.
・下條隆嗣(研究代表者) ,平成14年度~平成16年度 科学研究費補助金基盤研究B (1), 課題番号14380056 , 「21世紀中葉の社会・学術をイメージした科学教育のガイドライン-平成16年度最終報告書-」,東京学芸大学,平成17年3月,2005.
・下條隆嗣(主査)・ 他, 研究報告書「小・中学校の教科書の読みやすさ・わかりやすさに関する調査研究」,教科別最終報告書 理科,平成12~15年度文部科学省科学研究費補助金特別研究促進費(1)/課題番号 12800005,研究代表者 藤村和男,(財) 教科書研究センター,平成 16 年 3 月,2004.
・下條隆嗣(研究代表者)・梅埜 國夫,鳩貝太郎,平田昭雄,松原静郎,松森靖夫,他:「初等中等教育用理科教科書の学習材機能の向上に関する調査研究」研究成果報告書,第Ⅰ・Ⅱ巻,(財)教科書研究センター 平成17(2005)~20(2008)年度,教科書研究に対する奨学寄附金による調査研究(委託研究),発行:(財)教科書研究センター ,2010.
・独立行政法人国際協力機構人間開発部,「インドネシア初中等理数科現職教員研修発展計画(仮称)第一次事前調査現地報告書(案)」, 平成17年7月, 2005.