慢性腎臓病闘病記【2】-人工透析生活の実際
<2020.03.01記>
2-1.透析生活に入る―透析生活の概略, 2-2.透析時間の過ごし方, 2-3.ドライウェイトと食塩・水分, 2-4.透析中に起こること, 2-5.透析生活に入ってからの体調管理法, 2-6.食事・飲水の管理-塩分・カリウム・リンの摂取, 2-7.体重と血圧, 2-8.検査・服薬, 2-9.サプリなど, 2-10.尿量と除水量, 2-11.透析期間内の血液検査結果の変遷, 2-12.心房細動, 2-13.血管拡張手術, 2-14.薬の副作用による発赤, 2-15.運動・長距離散歩・ハイキング, 2-16.ストレスの取り方, 2-17.血管狭窄の再検査と再拡張手術, 2-18.保険証等の変更(後期高齢者), 2-19.緊急時の対応, 2-20.透析開始から2年経過して,2-21.慢性腎臓病治療の未来に期待すること
2-1. 透析生活に入る-透析生活の概略
さて,2018年2月15日に,慢性腎臓病に由来するうっ血性心不全で都立多摩総合医療センターに入院し,入院中に人工透析を受けていたが,3月3日の退院後すぐ,3月6日から,JR中央線の西国分寺駅前にある透析専門の「医療法人社団聖水会 立花クリニック」に週3回通うようになり,血液透析の生活に入った。人工透析の経費については,「慢性腎臓病闘病記(1)-高血圧治療から透析生活に至るまでの10年」の中で述べた。
このクリニックの院長は立花健先生である。ここは透析専門のクリニックでベッドは46床ほどある。私は高血圧性の慢性腎臓病だが糖尿病性の慢性腎臓病の方も大勢いらっしゃるようだ。車いすの方や,遠方からの方,中年の方もご年配の方々もおられる。
透析室には,ベッド,透析用機器(ダイアライザー),体重を精密にはかる大型の体重計,多数のコンピユータ端末などが並んでいる。他に機器室にはX線撮影装置や心電図計などが置かれている。
透析日は,透析の間の日を3日以上は空けてはいけないということで,私の場合,透析は週に火・木・土曜日の3回で,1回4時間から4時間半となった。透析日は,やむを得ない用事がある場合には,申し出て変更できる。実際,私も,自動車免許の更新のための教習日と重なった日など,1年に2回ばかり変更して頂いたことがある。また,年末から正月にかけては,元日はクリニックも休みになるが,透析が3日間以上空けないように日程を調整して下さる(例えば,12/30,1/2,1/5のように)。
透析時間は,都立多摩総合医療センター入院中の透析は3時間であった。立花クリニックに通院を始めたときには,透析時間は3時間を期待していたが,4時間から4.5時間と長くなって,少しがっかりした。このくらい長くしないと,毒素を十分に抜き,また余分な水分もゆっくり抜いて心臓への負担を減らすことができないらしい。透析時間が長いほど体への負担は減るということだが,実際,世の中には5,6時間の長時間透析もあるらしい。多摩総合医療センターの透析センターで透析時間が3時間だったのは,透析を要する患者が多く,ベッドが十分でないため時間を短くしているのであろうと思う。
私の場合,透析日は,火,木,土曜日であるが,透析の間が2日空いた翌日の火曜日は4時間半,1日空けの木・土曜には4時間の透析になるのが通例になっている。もちろん,旅行や会食などで多食・多飲となり,体重が増えた日の翌日は火曜日以外でも4時間半の透析時間になる。4時間の透析で済む場合には,看護師さんから「頑張りましたね」というお褒めの言葉を頂く。これは,「体重があまり増えないように自分でコントロールできましたね」という意味だ。それでも。下に述べるが,基準値とおりにコントロールするのは困難だ。
透析の通院生活に入って半月ほどの間は,透析が始まってから3時間程まではほぼ我慢できるが,それを過ぎると,「もうやめてくれ」と叫びたくなった。1分でも短くしてほしいと思った。透析用の針は,透析中に抜けないようにテープで固定されているが,体を大きく動かすことはできない。実際,治療とはいえ,このように自由を奪われて長時間を過ごすことは,私には最もつらいことであった。そこで次第に長い透析時間を過ごす工夫をするようになった。この工夫については後に述べる。
私の腎臓が急速悪化モードに入った2016年の半ばから,2018年2月半ばまで,すなわち入院して以後透析生活に入る前の約2年間は,タンパク質や塩分を厳しく制限する透析食を取っていたせいで,いつもおいしいものに飢えていた。透析生活に入ってからの数ヶ月間は,その反動もあって何を食べてもおいしく,つい食べ過ぎてしまった。もっとも,透析開始後の数ヶ月は,少し体重を増やしたかった。2018年2月15日にうっ血性心不全・末期腎不全で多摩総合医療センターに担ぎ込まれてハイケア・ユニットで治療を受けたときはガリガリに痩せた。後で述べるが,立花クリニックに通院しつつ,心房細動の検査で日赤病院に通ったが,三鷹駅前から日赤病院行きバスの座席に座ると,お尻の肉が落ちているので痛くて座れないほどだった。
透析の間の日には食事や水分の蓄積で体重が増える。透析日の透析前の体重増加の許容範囲は,1日空けの場合は体重の3%(体重60kgの場合には1.8kg),2日空けの場合は5%(同3.0kg)が規準とされる。
クリニックでは,透析前に,透析当日の透析直前の体重から前回の透析直後の体重を差し引いた値が求められ,その記録(表)を見ることができるので,それを用いて1日空けあるいは2日空け(透析直後から次の透析直前まで)の体重増加の値を求めることができる。体重増加量は,体重を意識的に増加させた2018年3月初旬から数ヶ月間は除き,体重の増加が一段落して落ち着いてきた2019年9月~12月の平均では,1日空けの場合の平均が2.2kg/日,2日空けの場合は3.8kg/日であった。これは基準を超えている。基準はなかなか守れない。
体重増加が3kgを越すと,透析時間を延ばして4時間半の透析となる。ゆっくり透析しないと,後で述べるが,いろいろなことが起こってつらい思いをする。このため,日常における水分摂取を極力減らさなければならない。次第に,透析時間が4時間で収まるように,水分を控えるように努力するようになった。
しかし,夏の暑い日には,ビールが飲みたくなる。ビールは,以前は350mLの缶ビールをよく飲んでいたが,管理栄養士さんのアドバイスで135mLの小缶の缶ビールで我慢するようになった。当初は,「ままごと」のおもちゃのような小缶では悲しくなったが,慣れると丁度よい量だ。ビールは最初の1口がおいしいから。
クリニックでは,透析に入る前に,まず体重を測る。下着,パジャマ,靴下,スリッパをはいたまま体重計に乗る。スリッパの重さ(0.1kg)を引くが,パジャマの重さを含んだ値が記録される。パジャマは季節によって変わるが,その都度,重さを看護師さんに伝える。パジャマの重さは自宅で測っておく。パジャマと下着の重さは,0.8kg程度だ。
体重については,「透析前の体重」と「前回の透析後の体重からの増加分」が用紙に記録される。また,用紙には「前回の透析後の体重と除水量」も記録されている。私はこれをiPad で写して体調管理に利用している。透析前の体重の値から,透析時間を4時間にするか,もっと延ばすか決められる。透析直後にも体重測定し,透析後の体重と除水量を記録する,これは次回の透析の参考にされる。
もう少し詳細に述べると,私の場合,〔透析前の体重-ドライウェイト〕が,2.8kg以下であると透析時間は4時間に,3.2kg以上であると4時間半になる。2.8kg~3.2kgの間になると,その日の私の都合で,透析時間を4時間にしたり,4時間半にしたりする。2.8kgや3.2kgという基準は,透析で体からこれ以上水分を引くと,後に述べる,急激な血圧低下が起こることから決められている(個人差がある)。ドライウェイトは,最低限の理想的な体重のことであるが後述する。場合によっては,透析で体重がドライウェイトまで下がらず,残念ながら数百g残ることがある。除水量は,〔透析前の体重-ドライウェイト〕+0.3kgで決められる。この0,3kgは透析液の量の補正値と透透析中に食べるおやつの重さ0.1kgの和である。
次に,ベッドに横になると,体温と血圧を測定する。このとき,看護師さんから体調も聞かれる。この情報はクリニック内で共有される。10時半ころ,看護師さんたちと医師が院内で一同に集まって,当日透析中の患者一同の医療にかかわる諸情報を共有している。なお,患者のデータはコンピュータに集積されているようで,看護師さんたちは,よく端末を見ておられる。
透析は,腕のシャントより上の2ヶ所に7,8cm離して太くて長い針を入れる(穿刺)。シャントに近い1本の針からダイアライザーと呼ばれる機械へ血液を送り,もう1本の腕の上の方にさした針から体内に戻す。針は太く,差すときにチクーッとするのが不愉快だ。上の方の穿刺箇所は,数ヶ月後に肘より上の腕の静脈に変更になった。血管の状況によって,数ヶ月から半年ごとくらいに穿刺箇所を変更する。下の方の穿刺個所も,時々少しずらすことがある。
【写真】穿刺した左腕
穿刺は失敗によって1回で済まないことがある。私の場合,3回試みたことがあるが,その時は,立花先生の診断で血管の狭窄ができているためとわかった。細い血管には針も刺しにくい。この場合,下で述べるが,血管拡張手術が必要になる。また,血管内には血液の逆流をふせぐための弁がところどころについているようで,針先が偶然,この弁のところに来てしまうと,穿刺がうまくゆかない。この場合は,針を少し抜いてみたり,刺し直しということになる。
穿刺の時,看護師さんが,よく「当たっていませんか」とおっしゃる。これは,針の先端が血管にぶつかっていないかどうかということらしい。ぶつかっていると痛む。この時は,針を少し引き戻す。穿刺は,上(肩の方)の方よりも下(手の方)の方が痛む。下の方は神経が多いせいらしい。毎回,麻酔薬を塗った小さな貼り薬(ペンレステープ18mg)をくれるので,家を出る前にそれを貼っておくと,穿刺の時の痛みが減る。貼り薬は,穿刺の1時間30分から2時間前位にはる。この時間は,個人によって違うようなので,自分で試行錯誤をして,痛みが最小になる最適時間を見つけるのが良い。私の場合は1時間50分くらいだ。この貼り薬は,腕を洗ってから貼る。
朝,ペンレステープを貼ってからちょうどこの最適時間に会っていれば,穿刺の痛みはほとんどない。しかし,看護師さんが穿刺にくる時刻は9:00~9:25分くらいの間にあって,毎回異なるので,毎回,最適時間からのズレが生じる。その結果,多少チㇰーツとする痛みを感じる。であるから,このズレをも考慮して,もう少し強い貼り薬がほしいと思う。
透析中は,ダイアライザーに繋がった血圧計で,30分から1時間毎に血圧が測定される。これは,血圧の低下を監視しているようである。私の場合は,血圧が下がりやすい体質であるということで,30分おきに測定されている。血圧が下がってくると,ベッドの足の方を少し高く上げる。
11時頃になると,先生の回診が私の所にも回ってくる。回診では,血圧や体重の状況をチェックされ,体調を聞かれ,服薬や時には血液検査結果やX線検査の結果(心臓の大きさ)についての説明などがある。
透析が終わると,血圧と体温を測り,針を抜いて出血が止まるまで3分位手あるいはバンドで押さえ,その後,丸い絆創膏状のものを貼ってもらう。これは,翌朝になってからはがす。そして再び体重を計る。これで終了だ。あとは着替えて帰宅する。
ダイアライザーは血液浄化と水分除去(除水)を主な目的とした機器で,その中に透析用の膜が入っている。膜はいろいろな種類があるらしく,患者によって使い分けているようだ。ダイアライザーによる血液浄化は,血液中の尿素窒素,尿酸やクレアチニンなどの毒物やナトリウムなどを除去する。血液中のカルシウムCaの量も調整するらしい。
【写真】ダイアライザー(透析前) 左上の細長い筒は透析膜を格納する容器
【写真】透析膜を挿入したダイアライザーの筒
尿酸も除去されるので,以前あった痛風は心配なくなるとの立花先生のお話があった。また,機器内の血液凝固を防ぐために,ダイアライザーにはヘパリンという薬剤も同時に流されている。
看護師さんから,しばしば「脱血しますか」という言葉を聞く。最初,この言葉を聞いた時は,血を抜くのかとびっくりしたが,看護師さんから断片的に伺った話を総合すると,これは次のような意味合いらしい。
ダイアライザーの筒の内部には,血液中の不純物を除去するための膜(半透膜)を持つ細い管(中空糸)がびっしり入っていて,血液が中を通る。透析開始時には,ダイアライザーに血液がスムーズに流れるように,充填液と呼ばれる液(約200mL)が管の内外に入れられている。管内の充填液は透析液とは別物だ。透析が始まると,血液は管内を流れ,また透析液は不純物を吸収しながら管の外側を流れる。管内の充填液と血液は混ざるが,管外の透析液と血液は混ざることはない。管内の充填液は体内に戻すか,体外に捨てられる。後者の場合は,正式には「回路内充填液破棄」と呼ぶらしいが,当クリニックでは,『脱血』と呼んでいるようだ。この『脱血』が実施されると,管内の残留液は,管外を流れる液体(残留液・透析液)の圧力を下げて管外へ吸引され,貯留瓶に集められて捨てられる(約150mL)。
一般用語としては,「脱血」とは,体から血液をダイアライザーへ送ることを意味する(「返血」は,逆に,ダイアライザーからきれいになった血液を体内に戻すことを意味する)。「回路内充填液破棄」としての『脱血』というこの言葉の使い方は,あまりポピュラーではなく,当院独特の言い回しのようだ。『脱血』は,比較的元気な(血圧が低すぎない)患者に実施する。『脱血』すると,透析直後の体重は,通常の除水量(2~3kg)に加えて更に150g程度減るので,少しでも透析後の体重を減らしたい患者にとってはありがたいことだ。看護師さんの「脱血しますか」という質問は,充填液を体外に捨てて体重を更に150g程度減らしたいですかという意味なのだ。体重を更に150g減らすことができれば,透析後水分として湯飲み茶わんでお茶を一杯分愉しめる。
人工透析は腎臓の全機能を代替するものではなく,一部の機能の代替に過ぎない。例えば,腎臓は造血ホルモンを作るらしいが,慢性腎臓病になるとその機能が落ちる。このため,造血ホルモン(EPO:エリスロポイチン)や鉄材,ビタミンD,活性ビタミンEなども時時注射して下さる。ダイアライザーには,造血機能の回復を助ける機能はないから,腎機能を完全に代替するような印象を与える「人工透析」という名称は,この点からは妙である。ちなみに,看護師さんによると,日本のダイアライザーの性能は世界最高水準であるという。
管理栄養士さんのお話によると,エリスロポエチンが患者に注射されるようになったのは,わずか数年前であるという(調べてみると,エリスロポエチンは2012年に全合成に成功したらしい)。それが開発されてからまだ10年に満たない。このホルモンが投与されるようになる前は,患者は腎性貧血で皆顔色が悪く,人工透析生活を送りつつ働きに出ていた患者は当クリニックでも2,3人(1%程度?)に過ぎなかったらしい。現在は,このホルモンの投与によって,患者の顔色も良くなり,人工透析生活を送りつつ働きにでられる方も多くなったということである。医学の進歩に感謝したい。
透析は,午前の透析や午後の透析があるというが,私の場合は午前透析だ。透析日の時間的なことを述べると,朝8時10分自宅から病院へ出発する。ゆっくり歩いて20分ほどである。市の地域バスもあるが,この時刻ではまだ運行を開始していないし,立花先生の「少し歩いた方がよい」というアドバイスに従って,ゆっくり歩く。8:30病院へ到着,パジャマに着替えて透析室に入る。X線検査や心電図検査のある時は,パジャマに着替えたらすぐに検査室にゆく。次に体重測定をし,体温も測る。冬場の体温は体重測定の際に耳の穴やおでこに体温計を近づけてはかる(たぶん放射温度計だろう)。これはインフルエンザの感染予防のためである。それが終わると,ベッドに娯楽用にiPadを設置し,横になり血圧計を右腕に装着してもらう。8:50頃に1回目の血圧を測定し,9時から9:20分の間に,穿刺と針の固定を行う。穿刺がうまくゆかない時には再度穿刺を試みるが,その場合,1回のやり直しで時間が10分ほど伸びる。これが終わると4時間または4時間半の透析に入る。前者の場合には午後1時から1時20分頃,また後者の場合には1時30分から1時50分頃に透析が終わり,その後,針抜きと止血,体重測定に10分ほどかけて終了となる。その後,着替えなどの後始末に10分費やす。この後,おなかがすいていて帰宅するまでもたないので,外食で昼食をとる(食事をすると,血圧が下がって危険なばあいもあるので注意が必要である。本来は,帰宅後の食事が望ましい)。帰路は,透析による疲労のため徒歩での帰宅はつらいので,地域バスに乗って帰る。バスで座れないときはつらい。帰宅は午後2:30から3:00頃となる。このように,午前透析といえども,午後までかかる。
透析の当日は血圧が下がっているので,入浴は危険で禁止である。針跡から菌が入る可能性もある。しかし夏場は,帰宅途中で汗をかいて不快なので,どうしてもシャワーを浴びたい。そこで,私は,水が針の跡に入らぬように,市販の薄い膜を止血用の絆創膏の上に張ってシャワーを浴びるようにした。
疲労については,透析当日は,上に述べたように,透析後やっと帰宅して,その後は終日ぐったりして横になっていることが多い。透析による脱水で体重減少が3kg超えると,ものすごく疲れ,その日は他に何もできない。また,土曜日の透析後は,脱水が3kg以内でも,ドライウェイトまで脱水するせいであろうか特に疲れる。帰宅後,数時間は何もできずに寝そべっていることが多いが,午後8時か9時頃まで,ごろ寝している日も多い。すなわち,透析の疲労回復には5,6時間かかるということだ。他の患者さんにも,こうした方がいると聞いた。この疲労は,心臓が疲れるためらしい。しかし,翌日は,爽快感を楽しめる(健常者にとっては,これが当たり前であるが)。
結局,透析日は,そのために1日つぶれてしまう感じである。このため,時間的に1週間が7日間から4日間(1週間に3回透析)になったように感じる。非透析日には,買い物や片づけをはじめ様々な用事を処理したり,眼科など他の病院へ行ったり,時には旅行に行ったり,結構忙しい。時間は飛ぶように過ぎてゆく印象で,透析の間の日の時間はとても貴重なものに感じる。
透析生活に入ってからは,ます「かゆみ」に悩まされることになった。夜中も特に背中がボリボリかゆくて起きてしまう。孫の手を枕元に置いている。透析開始当初は塗り薬を背中にたっぷり塗ってもかゆかった。しかし,過剰リンを吸着する薬を飲んでリンの血中濃度の管理ができ,リンの濃度が減ってきてからは,かゆみが和らいできたように思う。もちろん,かゆみを和らげる服薬(アレルギー抑制剤)はいつも処方されている。
これとは別に透析中にもかゆみが現れる。毎回のことであるが,透析開始から2時間くらい過ると背中などがかゆくなってくる。耳の中(外耳道)もかゆくなる。このため,私にとって「孫の手」と「耳かき」は必需品で枕元においている。人工透析を受けていると,他にもいくつか,「足のつり」や「血圧低下」など,いろいろな事が起こるが,それらについては別の項目で述べる。
透析中に空腹を強く感じるので,おやつを食べる。透析の終わり頃には,終わったらすぐ何を食べようかといろいろ考えをめぐらすことが多い。
透析を開始すると体調は過去10年よりずっと良くなってきた。まるで,嵐から穏やかな快晴になったようだ。ただし,これは透析翌日の話で,透析日では上に述べたように,その疲労でぐったりしている。しかし,非透析日は疲れないといっても,毒素が健常人と同じレベルまで抜けているわけではないので,ちょっと外出するだけで,透析日ほどではないがやはり疲れる。ちなみに,透析後は,下で述べるが,尿素窒素やクレアチニンなどの毒素は透析前の半分以下にはなるが,まだかなり体内に残っているし,生きている限り毒素は次々にたまり,それらを尿で出せないので体調は悪くなり,それで疲れるのであろう。
透析生活に入ってからは,なにより,ほぼ普通の食事ができるようになったことが最大の喜びだ。食事の管理は別記する。1年ほど過ぎてくると,頭も次第にシャープになってきたように感じた。しかし,透析は時間的,肉体的にかなり負担であることが次第にわかってきた。
2-2. 透析時間の過ごし方
透析を始めたころは,この長い透析時間をベッドで過ごすことがすごく苦痛であった。ベッドを斜めに起こして本を読めるようにしてみたが,数十分で背中が痛くなってしまい,平らにして過ごさざるを得ない。左手は透析で動かせないため,機器の操作も右手でしかできないので不便で,いろいろと工夫をした。
透析を始めたころは,4時間~4時間半をベッド上で過ごす工夫として,ラジオ,CDプレーヤー,ウオークマンなどを持ち込み,クラッシク音楽を聴いたりした。TVは有料カードを購入して視聴した(BSは入らない)。私にとっておもしろい番組は少ない。主にニュースを視る。
そのうち,ネットで金属製の支柱が曲がるスタンドを購入し,それをベッドの金属枠に取り付けるようにした。ただし,ベッドの金属枠は,円筒形なのでそのままではうまく固定できない。木製の取り付け具を自作して固定した。このスタンドの先にiPadを設置して本や論文を読めるようにした。本はバラバラにして,スキャナ-で読み込んでiPad に移した。
透析開始から1年を経過した頃から,目の疲れや頭の疲れが取れてきたように感じて,やっと本を読めるようになってきた。透析中もiPadで本や論文を読んだが,数週間もしないうちに次第におっくうになってきた。理由は透析で心臓が疲れるばかりでなく,頭もかなり疲れるためであると気づいた。そのため,透析を受けながら,難しい本や論文を読むのは無理だ。英語の辞書もiPad proに入れたが,片手では利用が煩わしい。結局の所,新書や小説などがよい。1回の透析中に1冊か半分以上読んでしまうようになった。
また,レンタル・ビデオ店で映画のDVDを借りてきて,iPadで見られるようにし,その作業が面倒になると,NETFLIXやamazonのprimeビデオからiPadで直接見られるようにした。なかなか,年寄向けの味のある映画は少ないと思う。これも飽きがくる。
2-3. ドライウェイトと食塩・水分
慢性腎臓病の体調管理上,体重について,「ドライウェイト」と呼ばれる重要な量がある。いわば最低限の理想的な体重であり,体重はこの価を規準にして管理し,ドライウェイトよりあまり増えないように心掛けなければならない。
慢性腎臓病になると,腎臓は体から水分を尿として排出できないし,過剰に水分を取ると,肺に水がたまって呼吸困難になってしまう。これは上に述べた私がハイケア・ユニットに収容された話の通りである。また心臓にも負担をかけて危険である。
ドライウェイトは,本人が普段運動しているか(筋肉の多少),体型,過去の透析実績などから医師が判断するが,余分な水分を除いたあとの体重と思えばよいと思う。医師が時々,体重増加や,透析時間の最後の方で足のつりや血圧低下がどの程度起こるかなどをみて,ドライウェイトの価を変更する。「足のつり」や「血圧低下」が頻繁に起きるようになると,ドライウェイトの値が若干(数百g)増やされる。当クリニックでは,ドライウェイトは真の体重にパジャマの重さを加えた値で評価している。
透析を始めてからは,低蛋白ご飯などから解放され,何をたべてもおいしいので体重が次第に増え,ドライウェイトも増加した。私の場合,鬱血性心不全・末期腎不全で都立多摩総合医療センターに入院中の透析によりガリガリにやせて,退院直後の2018年3月1日では,ドライウェイトは52.4kgであったが, 1年後の2019年3月1日では59.6kgと7.2kgも増えた。2020年1月では,ドライウェイトは60.7kgである。
ドライウェイトは,少しずつ上がるのが一般的であるが,時に下がることもある。それは,医師によって,体重,血圧,透析中の血圧の変化や水分の引き具合,心臓の大きさ(心胸比)などから決められていると思われるが,その塩梅は絶妙であると思う。
また,ある時,食事量・飲水量・塩分量をかなり抑えて,起床時の体重がドライウェイト60.7kgより0.3kgしか増えていない61.0kgであった日がある(普段は62~64kgの場合が多い)。その日の透析では,脱水に余裕があるということで,初めて,ドライウェイトよりさらに200g低い値まで体重を落とすことにした。帰路はフラフラせずに無事帰宅したが,その日は体がすごく軽く感じられてびっくりした。
週内の初めての透析日(火曜日)ではドライウェイトまで水を引かない,木曜日はもう少しドライウェイトに近づけるまで引く。そして土曜日にはドライウェイトまで引く。このように,除水は体に負担をかけないように配慮されている。毎週,ほぼこの繰り返しである。
私は10数年前から,毎日,朝夕の体重や1日数回の血圧測定を続けている。塩分を多くとるとのどが渇き,水分を多く取ることになって血圧があがり,腎臓に良くない。透析日には水分と毒素を抜くが,水分は多い日で3kg程度抜く(これまでで最高は3.6kgであった)。抜かれた水分が溜まったタンクを見たが,こんなに大量に水分が抜かれるのかとびっくりしたことがある。除水の結果,翌朝の血圧は140台に下がる。しかし翌々日の朝の血圧は,また食事や飲水の結果,170以上(冬場は180台)になる。食事に含まれる水分量も無視できない。体に水分がたまると,こんなに血圧があがるものかと驚く。グラフを付けているので,そうした傾向が如実にわかる。
水は1日800cc以下にするようにといわれているが,なかなか守れない。多いときは2000mL以上のんでしまう。特に寿司やチャーハンやインドカレーを食べた後は,やたらとのどが渇いて,水や茶を沢山のんでしまう。外食で大食いしたときや旅行に行った時も飲水量は多くなる。1泊旅行に行くと,注意していても体重は3kg位増える。一般的に体重が増えると,血圧は上昇してゆく。
体重が落ち着いてきた2019年の1日の除水量は,火曜日が3.2kg~3.3kg,木・金曜日が2.1kg~2.8kgで,平均は1日当たり2.7kgであった。1週間で平均8.0kg~8.8kgも体から水分を引いていることになる。
透析を2日開けた火曜日の朝は体重がかなり増えている。お腹が張ってだるくなる。朝,鏡を見ると,顔がむくんでいるのがわかる。慢性腎臓病の場合,症状が良くなることはないことはわかっているが,やはり,このことから自分の慢性腎臓病も一向に良くならないことを知らされて悲しくなる。
透析日の朝食の重量は,朝から実施する透析の直前の体重から,その日の起床直後の体重を差し引けばわかるし,昼食・間食・夕食を合わせた重量は,就寝前の体重から透析直後の体重を差し引けばわかる。ただし,これらの体重測定の間の代謝や活動などによる体重減少は無視している。これらを正確に求めるには,朝食・昼食・夕食の各々の直前と直後に体重を計ればよいが,面倒でできない。そのうち,試みてみようとは思っている。こうして,1,2ヶ月間の平均をとる。食事量も,食べすぎの日もあまりなく,体重が均衡している時期であった2019年9月~10月の頃は,朝食の重量は0.3kg,昼食・間食・夕食の合計の重量は0.8kgであった。ただし,これらの値は,旅行に行った日は除いて計算したものである。
私の場合,節制に努めた日でも,食事とは別に水・茶・コーヒーなどを1日約1.1L,すなわち1.1Kgほど摂っている。また食事で1.1kg程度の食物を摂っているので,計約2.2kgほどの食物や飲料を摂っている。この値は1日の体重増加の基準である1.7kgより多い。多い分は,飲みすぎ,食べ過ぎということになる。
朝体重(起床時の体重)の曜日毎の月平均を図2-1に示す。透析日(火,木,土曜)朝の体重は増えている。透析日の翌日の体重は減っている(2018年6月~同年11月までの半年間)。
図2-1 朝体重の曜日毎の月平均(2018年6月~同年11月)
2-4. 透析中に起こること
透析を実施すると,いろいろなことが起きる。私は医師ではないので,それらの原因は分からないが,症状とそれらの対処方を書くことにする。
・かゆみ
上に述べたが,透析が2時間くらい過ぎると体がかゆくなる。とりわけ背中がかゆくなる。外耳道もかゆくなる。右腕もかゆくなるが,左腕は針が固定されていて動かせずかけない。透析中に体温が少しずつ上がる。たとえば,透析前に36.2℃であった体温は透析終了時には36.8℃になる(血圧が急低下した場合は体温はもっと上がる)。こうして体が温まるとかゆくなってくる感じだ。背中は長時間ベッドに密着しているので少し汗ばむが,そのせいでかゆくなるのかもしれない。ダイアライザーで循環している血液の温度を少し下げて下さると,かゆみが減る。
・いたみ
透析中に血圧が下がってくると,透析の針をさしているところやその近辺が痛くなってくることがある。その場合,看護師さんがその場所に湿布をしたり,さらにその上から保冷材をあてて冷やしてくれる。すると痛みがやわらぐ。
・足のつり
透析では毒素と水分を抜くが,透析中に水分をかなり抜き,血圧が下がるってくるとよく足をつるようになる。体液の成分のバランスが崩れるためらしい。血圧が下がってくると,ベッドの足の方を上げる。また「足のつり」が起こると,つり防止の即効性がある漢方薬を飲んだり,看護師さんに足を湯たんぽで温めてもらったりする。「つり防止」に,シャントを作って頂いた際に手術時に着用した鬱血防止用のきつめのソックスを透析病院でも毎回履くようにしている。透析生活に入ってから2年くらい経過した後は,「足のつり」が起こる頻度も下がってきたので,このソックスをはくことから解放された。
・血圧・脈拍低下
一般的に,透析によって,血圧は下がってくる。血圧が下がりすぎると,透析は一旦中止となることがあるので,看護師さん達が,常時患者の血圧をチェックしている。血圧が低くなり始めると,看護師さんがベッドの足の方を少しあげたり(ベッドは上半身,下半身とも折れ曲がる),ダイアライザーを循環する血液の温度を少し下げて体内の温度を下げたりして下さる(体内温度が下がれば血管が収縮して血圧があがるためであろうと思う)。
頻繁に起こることではないが,透析の終了の頃に,血圧が急激に低下することがある。この時は厄介だ。
透析は毒素と水分を抜く。私の場合,水分は日によって異なるが2.5kg~3.3kgくらい引く。水分をかなり抜き,体重がドライウェイトに近づいてくると,場合により特有の症状が現れる。透析の最後の方で(例えば最後の10分で),収縮時の血圧が急に下がることがたまにある。上(収縮時)の血圧が150程度から酷いときは50,60台まで下がることがある。この状態になると,あくびが頻発し,体が急に熱くなり,脈も下がるようだ(上がる方もおられるようだが・・・)。冷や汗が顔や上半身に急に噴き出して下着がびっしょり濡れる。もちろん,気分は悪く,吐き気がして,体は動かせない。このまま死ぬのかと思うときもある。これは体内をめぐる血液量が減少することや,心機能の低下などによるらしい。この場合は,ベッド横には呼び出しベル(ナースコール)が用意されていて,ボタンを押すと看護師さんが数名すぐに私を取り囲み,時として医師の方も一緒になって対応して下さる。こうなると,急いでブドウ糖を50ccや100cc注射してもらったり,酸素マスクを装着してもらったり,扇風機で体を冷やしたりしてもらう。すると10分位の間に血圧が上昇してきてなおるが,透析においてこれが一番つらい。
普段は,ここまで至る前に,血圧の低下を防ぐ上に述べたような予防措置をして下さったり,透析を一時的に中断して下さったりしてくれるので,血圧の急激な低下は頻繁に起きることではない。このようなことが起こった後では,ドライウェイトが少し増加されることが多い。こうしたことがあるので,筆者の感想であるが,血圧は標準範囲より少し高めの方が良いように思う。
この現象が起こって回復した後,まだ予定されていた透析時間が残っていれば,体内からの水分の回収はやめ,毒素の回収のみに限定して透析を継続する。
こうした血圧の急速低下は2018年春から透析を開始して初めの1年はしばしば経験したが,1年半経過してから後では起きていない。ドライウェイトの管理がうまくゆくようになったせいかもしれない。
寒さが厳しい山での遭難者は,裸で発見されることがあるという。凍死寸前に体が急に熱くなるようで,耐えきれず服を脱いでしまうようだ。この現象は,奥多摩で遭難者の救助活動に当られた金氏の著作にも紹介されている(金邦夫「金副隊長の山岳救助隊日誌 山は本当に危険がいっぱい」角川学芸ブックス,2007)。また,有名な映画「八甲田山」でも,寒い山の中で遭難した兵士がフンドシ一枚になって急に凍死するシーンがいくつかある。これと同じであろうか? 全く不思議なことである。
透析中に起こることではないが,透析生活を送っていると毎日のように起こることがある。それは足のムズムズ病だ。ほとんど毎朝,靴下を履いてしばらくすると起こることが多いが,両足の小指,足の甲,足裏(土踏まず)などにムズムズしたかゆみを感ずる。しもやけが治るときの痒さのようだ。特に湿度が高い梅雨時や夏に頻繁に起こる。皮膚科でみて頂いたが,水虫ではないという。そういう時は,痒さに我慢できないので,かゆみ止め軟膏を塗っている。透析クリニックで,副腎皮質ホルモン軟膏を処方して頂くこともある。最初は,この痒さは水虫によると思っていたが,足はきれいで水虫の症状は見られないので,なぜ痒いのか不思議に思っていたが,テレビの番組で慢性腎臓病の場合,ムズムズ病があると知って合点がいった。
2-5. 透析生活に入ってからの体調管理法
透析生活に入っても,それ以前と同じように血圧・食事・体重などを毎日カードに記録し,それらを用いてパソコンで毎日,血圧表,食事記録表,体調管理表などを作って体調を管理している。
透析生活に入ってからは,カード類は,透析生活に入る前から用いていた「血圧カード」などの他に,尿量を記録する「尿量カード」と飲水量を記録する「飲水量カード」,体調データをまとめた「体調まとめカード」を追加した。さらに,「食事記録カード」には,蛋白・塩分・カロリー(PSC)の他に,食品のカリウム(K)の含有量も加えるようになった。
・毎血カード
毎日の血圧を記録する。血圧測定時刻と上・下の血圧および脈拍を記録。定時測定として,朝7時,正午,夕7時はできるだけ測定(前後30分以内にに測定)。他に1日に数回測定。特に,私は早朝高血圧症らしいので,起床20分過ぎにも測る(早朝血圧)。
・尿量カード
尿はほとんどでないのであるが,朝起きてから翌日の朝までの1日間の尿量を記録する。日付,尿量,累計,採尿時刻を記録する。加えて,便通の有無も記入する。
・食事記録カード
毎日,食事記録をつける。カードには,日付,朝・昼・夕・間食の区別,総菜メーカー,食品名,重量,PSCKの計算値を記入する。朝食,昼食,夕食分の3枚になる。
・飲水量カード
日付,時刻,水物の名称,飲水量,累計を記入する。飲水量を求めるために,普段使っているカップには,50mL,100mL,150mLの印をつけておくとよい。また,日常よく使うカップや湯呑茶碗などの容量の表を別に作っておくと便利だ。
食事記録カードと飲水量記録カードは,食卓の隅にでも置いておき,飲食の際に随時記録するようにしておくと,集計に手間取らない。
・体調まとめカード
上に述べたようないろいろなカードがあるので,これらをまとめて記録する「体調まとめカード」をつくると便利だ。このカードは前日分と当日分の2枚を用意する。当日分のカードには,朝体重と測定時刻,朝の体温,シャント音が正常か否かなどを朝のうちに記録し,残りは翌日に記入する。また,前日分のカードには日付,朝の体重と測定時刻,朝の体温,シャント音が正常か否かについては前日に記入済なので,夕の体重と測定時刻,飲水量,尿量などを,他のカードから転記する。朝の体重は,カレンダーにも記入している。前週の同じ曜日の日の朝の体重と比較して,その増減をみている。
以上のカード類は,一目でわかるように色のついた紙(A4用紙四つ切)で区別している。次にこれらのカードを集めて,翌日にこれらのカードからデータをいくつかの表に転記し,グラフをつくる。これらの表は,パソコンでEXCELLやWORDなどのソフトを活用して作成するが,血圧,食事記録,体調記録などは1ヶ月から3ヶ月をまとめて表に表示している。
・毎血表
1月分の血圧記録。血圧カードから毎日転記する。
・月間体調記録表
体調まとめカードや血圧カードから,データを「月間体調記録表」に転記する。朝夕の体重,朝・(昼)・夕の血圧・脈拍,朝の体温,シャント音の正常性,飲水量,尿量,便通の有無,降圧剤の服用確認,早朝血圧,1日の最高血圧と最低血圧,1日の平均血圧を示す。透析日当日は朝体重,朝の血圧・脈,朝の体温,シャント音の正常性,早朝血圧のみを示す。
・週間体調記録表
月間体調記録表から,透析日より前の1週間分の毎日についてのデータを抜き取って「週間体調記録表」をつくる。A4用紙1枚にまとめる。この表は,透析日に往診の際に医師に示し,降圧剤の服用量を調節するなどの対策を取るための参考にして頂く。
・食録表
「食録表」は,毎日食した食品の食品名,重量,栄養成分(PSCK)を記録した食事記録で,食録カードから毎日転記する。3ケ月分まとめて表示する。栄養成分を記入するとき,次に述べる「食品栄養表」を参考にする。
・食品栄養表
透析生活に入ってからは,「栄養表」をパソコンで別に作っておくようにした。透析生活に入る前はブログ「慢性腎臓病闘病記(1)」で述べた図書を参考に,食品の蛋白質量(P),塩分量(S),熱量(C)を調べて紙の栄養表に記録していた。透析生活に入ってからは,管理栄養士さんのすすめもあって,これらにカリウム(K)の値も追加するようにした。これらは厳密なものではなく、大まかな値である。この「食品栄養表」に基づいて,上に述べた「食録表」に1日に食べた食べ物のPSCKの値を記入する。毎日,食品のPSCKの値を調べて「食録表」に記入するのは煩わしいので,自作の「食品栄養表」をパソコン上につくることにした。この表は,毎日,食品名を追加したり,これまでに記入した食品のデータを修正したりして,日が経つにつれて次第に精密になり充実してゆく。また,同一の食品の栄養計算を毎回する必要がなくなり,なにより検索が速くすむ。それに連れて,この食品栄養表を基にした「食録表」つくりも速くなっていった。
食品は,主食系,総菜系,調味料系,外食系(店舗別),間食系,果実系,酒・つまみ系,飲料系,調整食品に分け,他にサプリ系,風袋のジャンルも設けて記録する。記録にはEXCELの表をつかう。その上で,各ジャンル毎にアイウエオ順に食品とそのPSCKの値を記入できるようにする。あまり正確に計算しようとすると,時間もかかり,面倒になって長続きしない。筆者の場合は,おおむね8割方正しければよいという程度の正確さにとどめている。
総菜系の場合,五十音順に食品の種類,製造元,販売店,食品名,重量,PSCKの値,備考,出典を記録し,また,ジャンルが外食系の場合は,五十音順に食品の店名,食品名,PSCKの値,備考,出典を記録する。ここで出典は商品表示,参照した図書名,Net検索などである。これを記録しておくと後々便利なことが多い。
ファーストフード店(マクドナルド,ロッテリア,すき家など)は,商品の栄養表をネットで公開していて,それらはPSCの値を表示している。マクドナルドの栄誉表は,商品のカリウム値も表示している。これらの栄養表は,頻繁に見るので印刷しておくと便利だ。
スーパーで買う総菜やコンビニのサンドウイッチなど,PSCの値が表示されているものも多いが,これらの値は時期により少しずつ変わることもあるので,同じ商品でも毎回PSCの値をチェックするようにしている。これらの食品でカリウムの値が表示されているものはほとんどない。腎臓病のための食品についての本にはカリウム値がでているものが最近多くなってきた。
・栄養・飲水表
毎日の食事のPSCK量,朝晩の体重,飲水量,尿量を記録した表(一月分)である。3日ごとに平均をとる。飲水量は,味噌汁,コーヒー,酒などなども記入している。この表を参考にして,旅行などで食べ過ぎた日は,次の日の食事量を抑えるなどの工夫をする。また,この表は,「食録表」とともに,1週間に一度,過去1週間分の記録を管理栄養士さんに提出し,これらを元にして食事についてのアドバイスを受けている。
1日の体調管理(記録)は,次のようになる。毎朝,起きるとまず起きたての血圧を測定する。起きたては血圧がまだ安定していないので,起床20分後に測る。私は早朝に血圧が高い早朝高血圧の症状がみられるので測っている。これは早朝血圧として記録する。次に,体温をはかり,聴診器でシャント音を確認する。さらに昨日の尿量を「尿量カード」から求め,昨日の「食事記録カード」から飲水量を求める。昨日の「体調まとめカード」に,昨日夕の体重と測定時刻,飲水量,尿量を転記し,また当日の「体調まとめカード」に当日朝の体重と測定時刻,体温,シャント音を記録する。血圧は,朝7時,正午(非透析日),夕7時の定時測定の他,1日に数回図る。定時は∓30分以内に測るようにしている。次にこの「体調まとめカード」と「血圧カード」から,「月間体調記録表」にデータを転記し,さらにそこから,医師に見せる「週間体調記録表」をつくる。これをもって透析に出かける。透析から帰宅後,時間のあるときに「体組成表」「食事記録表」「栄養・飲水表」をつくる。透析のない日も,これらのルーチンは同様である。
筆者の場合,1日に3枚程度たまる「食事記録カード」から,パソコン内の「食録表」「栄養・飲水表」にデータを転記する。
医師の先生には,「週間体調表」を透析日にお見せする(いつも,透析当日の日からさかのぼって4,5日間を表示する。また管理栄養士さんには,毎週木曜日ごとに,前週の水曜日~今週の火曜日までの1週間分の食事を記録した「食録表」と毎日のデータを追加した当月の「栄養・飲水表」の二つを提出して,食事に関するアドバイスを頂いている。
旅行中は,腕に巻く携帯用の血圧計を持参して,血圧を1日に数回計測する。また飲水量や食したものをできるだけメモに残しておく。ホテルの食事は,食材が多彩なので,とてもPSCKの値を計算できない。食録表には,大まかな推定値を記入している(普段の食事量よりもかなり多くなる)。
2-6. 食事・飲水の管理-塩分・カリウム・リンの摂取
透析生活に入ってからは,それ以前と食事がガラッと変わった。蛋白制限がゆるくなり,1日当りのタンパク質は30gから60gに変更になった。塩分や水分は要注意であるが,ほぼ普通の食事ができるようになったことはうれしい。初めの数ヶ月間は,何を食べてもおいしく,気を付けていたが,体重は次第に増加した。
透析直後では疲労がきついので,帰宅後すぐ,チョコレートを数ヶ食べたり,ブランデー,栄養ドリンクなどを飲むことが多くなった。これらにより,疲労の回復が速いように思われる。ただ,お酒の量は,定年前に比べれば,格段に減った。
透析クリニックには管理栄養士さんがおられ,食事面のアドバイスがある。これは,慢性腎臓病の管理にいかに食事が大切かを意味している。主に,タンパク量,塩分,水分,カリウム,リンの管理がある。管理栄養士さんは豊富な食品の知識があり,そのアドバイスが随分と食事管理の参考になっている。
管理栄養士さんからのアドバイスのなかで,一般的なものを挙げる。
・塩分をできるだけ控える。
例えば,牛丼でなく牛皿にする,味噌汁はできるだけ控え,頂く場合でも半分くらいにする,または具を中心に食べる,ラーメンの汁は飲まない,など。
・食品に含まれる水分に注意
ごはんのほかにパンやお餅も併用して水分摂取をおさえる,ビールは小缶に(135mL)にする,など。
・カリウムに注意
果物は生のものをできるだけ避けて缶詰にする。生野菜のカリウムに注意する。野菜はゆで汁は捨てる。
・リンに注意
・間食は多すぎないようにする
・汗の量などに気をつけて,季節ごとに食物や飲水量を調節する,
などである。
これらのアドバイスのうち,守るのが最もむずかしいのは塩分制限だ。塩分が多いものを食べると,どうしても喉が渇き,飲む水の量も増え,その結果,血圧があがってしまう。私の1日の水分摂取は,朝はコーヒー 220mL,野菜ジュース(玉ネギ酢15mL入り)70mL,茶100mL,計390mL,昼は,昼食時にコーヒーや茶が200mL,間食にコーヒー 220mL,そして夕食に,茶 200mL,その他酒類(ビール135mL,ワイン100mL,焼酎50+水割50mL,日本酒100mLなどの一つ)で,計1110mLの日が多い。夕食に味噌汁またはスープ200mLを週に一,二度頂くので,1日の飲水量の平均は1100mLより少し多めである。
ちなみに,2019年6月~12月までの飲水量と尿量およびPSCKの値をまとめた表が表1である。これによると,飲水量は毎日1.1L程度,尿量は25mLである(追記:2023年10月現在では,尿量はほぼ0になっている)。
表2-1 月ごとの1日の飲水量と尿量,およびPSCKの値
健常人の場合,水分は男性で体重の60%ほど,女性で50%ほどで,1日の飲水量は2L~3Lであるらしいので,私の場合は,健常人の半分以下の水で我慢していることになるが,それでもまだ基準値より多く,さらに飲水量を減らすように努力しなければならない。そのためには,摂取する塩分を減らすしかない。現在,私の塩分摂取量は普通の日でも表1にあるように12g/日くらいで,外食が多い日や旅行などにいった日は18~19gになることもある。これは基準値の6g/日の2倍以上になってしまっている。減塩は本当に難題だ。
1日に摂取する水分は,コーヒーやお茶などの飲み物から得る水分の他に,食物からくる水分が加わる。管理栄養士さんによると,食物に含まれる水分もばかにならないらしい。食物の水分は,果物などは90%のものもあるという。ごはんは50%,餅は30%など広範にわたる。また,体内で食物を代謝する際に発生する水分「代謝水」というものがあるが,それはせいぜい200~300mLらしい。水分は,やはり外部からとる量が大きい。
私の場合,夏場を除けば,朝起きたての体重は,前日夜の就寝前の体重より,200gほど少ない(夜中に水を飲まなければ)。すなわち,200mLの水分が就寝中に抜けたことになる。管理栄養士さんから聞いた話であるが,水分は透析による除水以外では,尿や便で体外にでる分,呼吸や汗ででる分の他に,皮膚からの蒸発(不感蒸泄 ふかんじょうせつ)する分があるという。上記の平均200mLの水分は,呼気と不感蒸泄によるものであろう。夏場は,この不感蒸泄が多く,500mL程度にもなるらしい。いずれにせよ,慢性腎臓病患者の場合,摂取した水分はほとんどまともに体内に蓄積してしまうらしい。
私は,旅行日は除いてほとんど毎日,体重や飲水量を記録しているので,普段食する食物の水分量を計算できる。食べ物や飲み物は季節性があるので,夏場と冬場では,この値は異なってくるであろうが,2019年9月における食物の水分量を求めてみたい。そのためのデータは,表2-2のようになった。ただし,9/1~9/2に1泊旅行に出かけて,9/1は3100mL,9/2は2500mLもの水や茶などを摂ってしまったが,このような食事量,飲水量とも普段より多かった特別な日は除いて計算してある。9月では,これ以外の日は,食事に関しては,あまり暴飲・暴食のない落ちついた日々であった。
表2-2 食物に含まれる水分量(2019年9月)を求めるためのデータ (単位:kg)
食物に含まれる水分の概算値を求めてみる。
W=就寝時の体重-起床時の体重+透析による除水量(透析日)
X=1日に摂取した食物の水分量
E=〔不感蒸泄+呼気+汗〕による水分量の減少
F=大便の重さ
M=食物が代謝されて筋肉となった重さ
とすると,次の式が成り立つであろう。代謝水はWに含まれていると考える,また大便の水分は無視する(実際は70%位になるらしい)。
X+F+M+E=W,
すなわち,
X=W-F―M-E
ここで,F≒0.2kg,M≒0と近似する。また,私の場合,上に述べたように,就寝時の体重より翌朝の体重が0.2位小さくなる(夜中に水を飲まない)が,これが就寝中の不感蒸泄や呼気による水分の減少と考えられる。就寝時間が8時間とすると,日中(16時間)のEの値はこの倍の0.4程度と推定される。E≒0.4。すると,
X≒W-0.2-0.4=W-0.6
2019年9月の場合,表2-2に示すように,W=1.33であった。ゆえに,X=0.73kgとなる。食物の水分量Xは,季節によって不感蒸泄や汗の量が違ってくるので,その値も変わってくるであろうが,この程度と考えられる。私の場合,1日の飲水量は約1.2L程度であるから,この6割弱を食品の水分から摂っていることになるので馬鹿にならない.
透析患者で体重が60kgの人の場合,1日の体重増加1.8kgが基準だ。この基準通りになっている場合には,水は800gに制限されているので,食事で1000gの増加を見込んでいることになる。私の場合は,表2-2から,平均でみると,1日の食物による体重増加は1.3kg程度,飲水量が1.2kg程度,計2.5kg程度となっている。これは,基準値1.8kgを超えている。
クリニックの隣のベッドの御年配のご婦人の患者さんは,老人ホームから通院なさっておられるが,朝食に「おかゆ」がでることがあるらしく,すると血圧が高くなるなど体調が悪化する。院長先生に,「おかゆはやめてください。普通のご飯を食べてください」と言われていた。患者によっては,水分を控えるのが,こんなに厳しいのかと驚いた。
飲水量は,水やお茶,コーヒーばかりでなく,スープや牛乳,味噌汁の量も大雑把に記録する。外食の際も,摂った水分の容量は概算で記録する。飲水量は1日800ccに制限されているが,なかなか守れず,2019年12月の例では,飲水量は1日当り約1142mL(尿量は平均21mL)になってしまっている。実際は,「もっと水を飲みたい。おもいきりたっぷり飲みたい」という誘惑にいつもかられている。
透析で尿素窒素などの毒素と共に水分も引く(除水)が,その量は1回の透析で大きなタンクに一杯になる(2kg~3kg)。従って透析後には体重もそれくらい減る。一般のダイエットの減量にくらべれば,ものすごい減量である(だから疲れる)。
外食すると塩分が多いので水分の摂取量は増える。さらに,旅行だと食事量がどうしても増えるし,ビールなどの酒類も量が増えてしまう。また,真夏でないにもかかわらず,昼間に庭木の剪定や竹切りなどの作業をして,汗もたくさんかいたが,お茶や水を3000mL近く飲んでしまったこともあった。
塩分を多目にとると,とたんにのどが渇いて我慢できず,どうしても水や茶を飲んでしまう。普通の日本人の塩分摂取量は12~15gくらいらしい(推奨値は男性7.5g,女性6.5g)。私の場合は平均12g程度である。
外食では1食で塩分が1日の基準の6g超えることが多い。例えば,「味噌野菜タンメン」のスープまでも7割飲んでしまった後では,強烈にのどがかわいて,水を1.5L飲んだことがあった。寿司ものどが乾く。
私は,ファーストフード店でフライドポテトを頼むときは,できるだけ無塩を頼んでいる(その代わりにケチャップをつけてもらう)。また,和食は洋食よりも比較的塩分が多く,食べた日の夕方から翌朝の血圧が急に上昇する。塩分は自分でも大体基準値の倍量の12g程度の塩分を摂ってしまっている。1泊旅行では,塩分摂取が24g程度になってしまったこともあった。
透析患者は,カリウムとリンの摂取についても注意が必要である。
血中のカリウム濃度が高い月がしばしばあったが,医師より,カリウムが過剰であると,心筋梗塞を起こしやすく心臓に危険であるというアドバイスがあった。カリウムやリンは過剰に摂取しても自覚症状はない。健康な人の場合は,カリウムを多く摂取してもどんどん腎臓から尿中へ排泄されるらしいが,慢性腎臓病患者の場合には,カリウムを尿から排泄する機能が弱く,体内に蓄積されて危険となるらしい。ナトリウムの場合には,透析で除去できるという。
血液のカリウム量のコントロールについては,透析日では,カリウムの原子は小さいので透析膜を通過しやすいためか透析で除去されるので問題ないが,透析と透析の間の日では,果物の食べ過ぎや野菜の取り方など,食事に気をつけるしかない。野菜は,ゆでた汁にカリウムが溶け込んでいるので,汁を捨てるように言われているが,野菜スープやポトフの汁は,飲むとスーと感じておいしいので,なかなか守れないでいる。カリウムは,あらゆる食品に含まれているので,常に注意が必要になる。
カリウムが多い果物類は毎日,少し食べている。透析開始のころは果物は缶詰にしていたが,おいしくないのですぐあきる。やっぱり,新鮮な生の果物がほしくなる。果物を食べることによって,季節の移ろいを感じ,人生の楽しみを味わうことも必要だ。
これまで食事のカリウム量は計算していなかったが,血液検査の結果,カリウムが多い月が多く危険なので,管理栄養士さんのお勧めもあって,2018年6月下旬から朝・昼・晩の食事内容を記録する「食録表」に,PSC(蛋白,塩分,熱量)の他にカリウムKの欄を付け加え,カリウム量も記入することにした。カリウムの計算については,下に詳しく記すが,「食品栄養表」など4, 5冊の本の表や写真を見て大まかに計算する。こうして得たPSCの値は大体あっていたことは,私のプログ「慢性腎臓病闘病記(1)」に記したとおりだが,食事を通してのカリウムの摂取量の計算値は,PSCの計算より大まかなので,どの程度正しいかはよくわからない。大まかな目安である。それでも,カリウム量を計算するようになってからの効果としては,高カリウム食品を食べないように,あるいは果物などを食べ過ぎないようにするようになったことがあげられる。
私の場合,カリウムの摂取量は1日に約2600mg位の日が多いが,昼食・外食をともに外食となる日では3000mgを超えてしまう。3700mgになってしまった日もあった。
透析でカリウムは除去されるが,透析の間の日に,カリウムが基準を超えて体内に蓄積されてしまうことがある。カリウム過剰にならない一番良い方法は,カリウムが少ない食事をすることだが,これがなかなか難しい。カリウムの過剰は不整脈や心筋梗塞など短期的に心臓に悪影響が心配されて危険であるので,こうした体質になってくると,カリウムの吸着剤を処方される。私の場合は,「ケイキサレート ドライシロップ 76%」という袋に入った顆粒状の薬が処方されている。これを食後に飲むが,飲む量は,カリウムが多そうな食事の場合は1袋,通常の食事の場合は半袋にしている。この薬を飲むとかなり強い便秘になるので困っていたが,食物繊維サプリが販売されていることに気づいて,ケーキサレートと共にそのサプリを飲むようにしている。それで便秘はかなり解消できるが,やはりしばしば強烈な便秘になる(こうした時は,便秘薬を服用する)。ケイキサレートと食物繊維サプリの相互の量は経験からはっきりさせてゆく。例えば,前者半袋に後者1袋など)。
慢性腎臓病患者はリンの排出も難しいので,注意が必要だ。血中のカルシウムやリンが過剰な状態が続くと,それらが血管壁に付着して,血管壁の石灰化を起こすそうだが,実際,私も市の特定健診でX線結果の結果,頸動脈などに石灰化が見られるということであった。悪化すると,動脈剥離で死亡する危険もあるという。
透析病院付きの管理栄養士さんは,患者の血液のリン,カリウムの量に目を光らしておられる。慢性腎臓病患者の場合,一番気にしなくてはならないのは,リンであるという。リンは長期的に血管の石灰化を引き起こして危険であり,カリウムは速効的に危険ということだ。
リンは乳製品や肉に多い。牛乳を多く飲んだときとか,肉を沢山食べたりしたときは注意しなければならない。
透析によるリンの除去は,リンの原子が大きいので透析膜を通過しづらいためか,効率が低いらしい。このため,リンに対する管理は,慢性腎臓病患者にとって最も重要なことらしい。ただし,リンに対しては過剰なリンを吸着する薬(ホスレノールOD錠)があって,それを食後すぐ服用すると,体内のリンの量を調節できる。2週毎の血液検査の結果を見ながら,リン吸着剤を増やしたり,減らしたりして,基準範囲内に落ち着くようにして頂いている。
リンはカリウムに比較して抑制しやすいと思う。食後30分以内に抑制剤(ホスレノールOD錠30mg)を適量飲むようにすれば,基準値内にすぐ収まるようになる。ただ,飲み忘れの時や,食後時間がかなりたってから飲むとあまり効果はなく,リンの値は基準値より高くなる。2週間ごとの血液検査で,リンやカルシウム,カリウムの値が常にモニターされているが,リンが多くなると薬の量を増やし,リンが減ると薬の量も減らすという繰り返しだ。カリウムについても同様だ。カルシウムは透析の器械が調整してくれる。血液検査のCaの値が,透析前の値より透析後の値の方が高くなった時もある。
こうして,毎日服用しているリン吸着剤(ホスレノールOD錠)であるが,その副作用は心配ないのであろうか? 私は中年の頃,大腸ポリープを摘出する手術を受けたことがある。その後7,8年ほどして再度大腸ポリープの検査を受けたが,その際に以前は無かった憩室が多数見つかった。これは腸壁できる大豆のような窪みである。腸壁の老化によってできたと思う。ネットで調べてみると,ホスレノールには様々な副作用があるが,腸管憩室のある患者が,腸管穿孔を起こした例が報告されているということである。これは,腸管憩室がある私にとっては不安になる情報であるが,今のところ副作用は現れていないようである。
総菜や弁当などの栄養成分表示では,一般にPSCのみでカリウムやリンの表示は無い。ファミリー・レストランでは,SCのみの表示が多い。ファーストフードは,ネットで商品の栄養を掲載しており,PSC表示に加えてKPの表示もあることもある。市販の総菜や食品で,カリウム,リンの値が表示されているものはほとんどない。是非,これらの値は表示してほしいと思う。
食品のカリウムやリンの値、特にリンの値は、食品のカロリーガイドの本にはのっていないものが多い。載っていても食品を構成する成分のもので,いろいろな成分からできている複合食品については計算せざるをえなくて面倒である。最近では,カリウムの値は掲載されている本が増えてきたが,リンについてはまだ掲載されている本は少ない。私の体験からいえることだが,食品に含まれるリンの値を求めなくても,リン吸着材の服用で比較的容易に体内のリン値をコントロールできるようだ。お肉をたくさん食べたときなどは,この吸着剤を3錠など多めに飲むなど注意している。
このように,カリウムやリンへの注意は大切であるので,自作の「食品栄養表」には,食品のカリウムの値も記入するようにした。
食品のリンについては,プログ「慢性腎臓病闘病記(1)」で紹介した食品の栄養についての本では,カリウム・リンの表示のあるものや無いものもある。改訂版にはカリウムやリンの表示がある。このようにリンの値を求めるはやっかいだし,リンは吸着剤を飲んでコントロールしやすいので,食品のリンの値に過敏になる必要も無いのかもしれない。
2-7. 体重と血圧
1日の夕食後の体重から朝食後の体重を引いた差の5ヶ月間(2018年12月~2019年4月)の平均を求めてみると,透析日では約-1.5kg,非透析日は+1.7kgとなった。すなわち,透析日では,朝・昼・夕食も普通に摂り,さらに透析の疲労回復のために間食としてチョコレートを食べ,ブランデーも少し飲んでも,夕食後の体重は朝食後の体重より約1.5kg減っていたが,非透析日では1.7kg増えている。
因みに透析による除水量は,平均すると毎回3kg弱となっていて,これが透析日の体重減少の主な理由であると思う。いずれにしろ,このことから,透析によっていかに体力が消耗するかがわかる。事実,看護師さんの話によると,ほとんどの患者さんは痩せているそうで,太っている患者さんは2~3%程度しかおられないとのことである。
大食いなどしなくとも,水分を多くとれば体重は増加し,血圧はあがってしまう。私の場合,非透析日の日・月曜日を過ぎた火曜日では,体重も増えて透析による脱水も3kg以上となるのが通例で,血圧も170台(冬場は180台)になる。透析日には,朝の血圧が170台であっても,透析をすると140台に下がることが多い。血圧は深呼吸してから測ると,10~20mmHGくらい下がるので,そうした方がよい。2019年10/24~10/26の1日の血圧変化のグラフを下に示す。
図2-2 血圧の日内変動 (2019年10/24~10/26)
血圧は季節変化もある。夏は比較的低く,冬は高くなる。私の場合,季節の変わり目,例えば夏から秋への変わり目では,血圧が急速に高くなり始めることが平血圧グラフをみるとわかる。
図2-3 年間を通してみた血圧変化(拡張期血圧,収縮期血圧,平均血圧)
図2-3の太線は,上から収縮時血圧の平均値(青線),収縮時・拡張時血圧の平均値(緑線),拡張期血圧の平均値(茶線)を示す。赤線は脈拍を示す。また,細い横線(薄青)は収縮時血圧の理想的な範囲(血圧147~88),細い横線(薄茶)は,拡張期血圧の理想的な範囲(血圧94~51)を示す。血圧がこれらの細い線の内部に来るように,飲食に気を付ける。ここで,血圧の理想的な範囲は,2014年4月4日公表された日本人間ドッグ学会による血圧新基準範囲である。これは,腎臓病患者向けの基準ではなく健常者向けの基準であるが,参考のために利用している。
図2-4 朝血グラフ2020.03~2020.06(起床20分過ぎの早朝血圧)
早朝血圧は,起床20分過ぎの朝1番にはかる血圧である。図2-4に示すように,早朝血圧は毎日の変動が激しい。一般に,早朝血圧は非透析日では下がるが,透析日では上がる。これは体に溜まった水分量が血圧に関係しているためではないかと考えられる。
2-8. 検査・服薬
透析病院では,様々な検査を定期的に実施してくれる。
・血液検査
私が通院しているクリニックでは,2週間単位で,次の3種類の血液検査のいづれかが行われる。
一つ目は,2週間おきに実施される血液検査がある。透析前に採血する。ここでは,貧血にかかわる白血球数,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板,MCV,MCHなどと,カリウム,カルシウム,無機リンを調べる。
二つ目は,4週間おきに,一つ目の検査項目に,クレアチニン(Cr),血液尿素窒素(BUN),尿酸,ナトリウムなどが追加されたより詳しい検査である。
三つめは,3月,6月,12月に更に詳しい検査がある。この時は透析前と後の血液をとる。透析前の血液検査では,2週間おきの検査項目に加えて,尿関係では,尿アミラーゼ,尿酸など,ミネラル関係では,マグネシウム,血清鉄,TIBCなど,肝機能関係ではAST,ALP ALT,γ-GTなど,栄養関係ではアルブミン,総コレステロール,LDL, HDL,グルコースなどが調べられる。時によって検査項目が代わるが,概ね上記は含まれている。透析後の血液検査では,尿素窒素やクレアチニンなどが調べられる。
なお,LDLコレステロール(悪玉),HDLコレステロール(善玉),グルコースなどは,市の特定健診でも検査されるが,糖尿病の有無はそれらの検査でわかる。
私は,腎臓病に由来する貧血がある。その状況は,白血球数は正常であるが,基準範囲の中央値と比較して赤血球数は約6割程度,ヘモグロビンも約6割程度で,この値は透析を開始し以来,ほとんど変化がない。
・心胸比(X線検査):心臓の大きさと胸郭の大きさとの比。原則として2ヶ月に1回。医師がドライウェイトを決める参考にされるようだ。水分や塩分の摂り過ぎで体重が増加すると,心臓が肥大して心胸比は増大する。
・心電図 1年に2回
・足 毎月(触診),年1回(機器)
月初めに足指や足全体の視診・触診がある。主に血流を調べているようだ。足の定期的検査は2019年から始まったようだ。足指の血行が悪化すると,壊疽になったりして歩行が困難になってしまうので,大事な検査であるという。また,年1回,カフを足首に巻いて,機器で左右の足の血流をチェックする。
・腕の血流検査
穿刺が1度でうまくゆかなかったよきなどは,腕の穿刺を行う個所近傍の血管の狭窄が疑われる。そうした際は,後日,超音波でその個所の血流を調べる検査もして下さる。狭窄がひどく血流が悪ければ,腎臓外科で血管拡張手術を受けることになる。
・注射・服薬 毎週
貧血防止のための造血ホルモン「エリスロポイエチン」,鉄剤,栄養剤の注射を時たま受ける。また,リンとカルシウムのバランスを保つために,副甲状腺ホルモンの注射をときたま受ける。
・尿検査
私の場合,尿量は1日に数mL~60mL程度で,数mLの日が多い。このように慢性腎臓病患者の場合は尿はほとんで出ないので腎臓クリニックでの尿検査は無い。尿検査については,市の特定健診では,尿検査を免除させてもらうか,あるいは蓄尿を出すようにしている。
・血液凝固検査
少量(2mL)の血液を2,3回採血して,血液の凝固の速さを調べる。人工透析において,血液の凝固を防いで体外血液循環を確保するために,ヘパリンという薬剤を4~5mLほどダイアラーザーに注入している。この量は,通常1回の透析当たり,4~5mLほどであるらしい。当該患者に適切なヘパリンの量を確認するために,1年に1回,この検査を行う。
服薬は,透析生活に入ってからは,私の場合,降圧剤,リン吸着剤,カリウム吸着剤,かゆみ止めのアレルギー予防剤,かゆみ止めの軟膏などである。リン吸着剤は,月に二度の検査値を見ながら医師が増やしたり減らしたり調整して下さる。通常は週に1回,決まった曜日に薬が出されるが,たまに他の曜日にも追加の薬が出されることがある。
かゆみ止めの軟膏は,透析開始から数ケ月後,リンの値が正常範囲内にコントロールできるようになってからは,かゆみも減り不要になった。ただし別に述べるが,降血圧剤の服薬によるアレルギーで発赤がでた数か月間は,この軟膏を全身に塗りたくった。ただし,足のかゆみについては,副腎皮質ホルモンを含む軟膏をときどき処方して頂いている。
血清カリウムの値が高い状態が長く続いていたので,ついに2019年9月ころから,摂取した体内のカリウムを減らす薬を飲み始めた。この薬は顆粒状の,「ケイキサレート ドライシロップ76%」である。この薬のナトリウム・イオンと腸管内のカリウム・イオンが交換されるらしい。カリウムを体内から減らす薬はこれまで無いと聞いていたので,こんな薬があることに驚くとともに,NaとKの交換とはうまいことを考えたものだと思う。「味噌汁に具としてワカメを入れると体内で塩分が減る」という話をきいたことがあるので,そのメカニズムが分かれば,ナトリウムとカリウムは化学的性質が類似しているので,カリウム削減にも何か手があるのではないかと思っていたが・・・。
このカリウム吸着剤は体内で膨らんで水分を吸収するらしく,そのため便秘になりやすい。当初,毎食ごとに1袋処方されたが,便秘がひどくなったので,しばらくして,原則として毎回半袋,食事量が多いときは1袋の服用に変更したところ,便秘は軽くなった。リンの吸着材も同様に,食事量と内容によって服用量を調整している。その結果,血液検査ではカリウムもリンの値も適正範囲に収まるようになった。最近は外食で食事量が多くなる日・月曜日に計1.5袋~2袋の服用が通例となっている。その後,サプリとしての食物繊維が販売されていることを知り,ケイキサレート服用時には食物繊維サプリ(粉末状)も一緒に服用するようにした(水溶性の食物繊維が良いらしい)。その結果,ケイキサレート服用による便秘からは解放されるようになった。
このように,検査はいろいろな面で頻繁に行われ,至たれりつくせりという感じがする。また,クリニックでは,降圧剤などの透析管理上必要となる薬の他,風邪薬なども処方してくださる。他の病院に行く手間が省け,時間的に大助かりだ。クリニックには,車椅子や送迎用車を利用するなど,移動もままならない患者の方も多いが,そのような方々にとってはありがたい仕組みであると思う。
秋には,インフルエンザ・ワクチンの注射も実費でやって下さる。これまで,他の医院でワクチンの注射をして頂いていたが,そのために,通院の往復の時間と待ち時間を含めて数時間を費やしていた。これは,本当に時間の節約になってありがたい。
2-9. サプリなど
透析生活に入ってからも,私は,透析前からの「タマネギ酢」の飲用や,「DHA&EPA」「しなやかケア(年齢ペプチド)」「ラクトフェリン」の服用を続けている。ただし,これらは規定量より少なめに飲んでいる。例えば,朝・昼・夕に飲むべきところを,朝と夕の2回にしている。以上は,慢性腎臓病にも良いと思う。
2-10. 尿量と除水量
透析生活に入る前の数年間は頻尿がひどく,トイレに行く回数も,日中も数時間おきに,また夜中に何回もあり,寝不足に悩まされていた。しかし,透析生活に入ってからは,頻尿がうそのように乏尿へ変わり,日中は2,3回(それもほとんど出ない),夜中は0回になった。不思議なことに,尿意は催しても,尿は1mL以下しかでないこともある。つまり,摂った水分は,ほとんどが体内にたまってしまうということだ。私の場合,尿量は1日数mL~60mL程度である。たまに水分を取り過ぎた日の翌日では,尿量が60mL位になる日もたまにあるが,少ないときは2mL程度しかでない。しかも,尿はほとんどが朝に少し出てしまい,日中はほとんどでない。このように,透析を始めると尿はほとんど出なくなるから透析生活に入ってからは,尿検査はなくなった。しかし,自分用に1日の尿量は記録することにした。外出時の採尿はむずかしいので,その量は大まかに推測する。
採尿容器は,大きいものは不要である。80mL位まで尿が入るもので十分である。筆者も,目盛り付きビーカー,目盛り付き計量器,メスシリンダーなどいろいろ使ってみたが,工事関係者が使う80mL位入る口広の円錐形容器(半透明)が一番使い勝手がよい。この容器に薄いアルミ板を切って取手を付けた。これを二つ造って1階と2階のトイレにおいた。そばに尿量を記録するメモ用紙もおいておく。尿量をある程度正しく計れるように,最低5mL単位の目盛がついた容器がよい。
慢性腎臓病のために尿がでないので,透析で除水している訳だが,私の場合,2019年の9月~12月までの4ヶ月間では,透析日の1日当たりの平均除水量は2800mLであった。また透析日の尿量は,ほとんど無視できる。これが1週間に3回ある。透析の間の日は,水を体内から出すのは主に尿であるが,これも無視できる量だ。したがって,1週間に2.8L×3=8.4L程度の水分を体内から除去していることになる。1日当たりの平均では8.6L÷7=1.2Lだ。体重に直せば,1週間で約8.4kg,1日当たりの平均で1.2kg減らしていることになる。ちなみに,成人健常者の1日の尿量は,1000mL~2000mLであるというから,私の場合,その程度の尿を透析で引いていることになる。なお,旅行や会食の際には飲水量が普段の2倍以上になってしまった日がたまにあったが,上記の平均にはそれも含まれている。
2-11. 透析期間内の血液検査結果の変遷
透析生活中の毒素(クレアチニン,尿酸,尿素窒素など)の値や貧血状態はどう変化しているのだろうか?
私は,パソコンで「健康推移表」というものをつくり,毎回の血液検査結果を記入している。こ表によって,貧血の状態や,クレアチニン値や尿素窒素の値の増減,カリウムやリンの値の増減などの変遷が一目でわかる。
クレアチニンは透析を始めたころは(2018.02.15)10.5程度,2019年10月には12.5程度にゆっくり増加(基準値は0.61~1.04mg/dL),尿酸は10前後だがもゆっくり増加(基準値は3.8~7.0mg/dL),尿素窒素は80前後(基準値は8.0~20.0mg/dL)でほぼ一定という状況で,私の慢性腎臓病はごくゆっくりした悪化が続いているものと考えられる。老化の進行と考えれば,自然かもしれない。
透析生活中も慢性腎臓病による貧血は続いている。血液検査の結果,私の赤血球については,透析開始からこれまで(2020.03),ほぼ300±20 104/μL前後で推移してきた。基準値は430~570 104/μLであるから,この値は基準値の53%から70%に該当する。だから,疲れるわけだ。
血液透析によって,どのくらい毒素が抜けるのであろうか。ある透析日(2019年6/18)の具体的な数値を紹介すると,透析前後でクレアチニンの値は12.12→5.27(基準値0.61~1.04),尿酸は9.3→3.0 (基準値3.8~7.0),尿素窒素(BUN)は77.7→26.6(基準値8.0~20.0)。単位はすべてmg/dLである。透析によって,尿酸だけが正常範囲に戻った。透析直後のクレアチニンと尿素窒素は基準値には戻っていないが,基準値に近づいているのがわかる。
2-12. 心房細動
私は,10数年前から,庭木の剪定や,思い荷物を運んだ日は,夜寝ている時に時々脈が乱れ,どきどきして目をさますことがあった。
以前,アレルギー性喘息で見ていただいていた循環器疾患がご専門の医院に行ったある日,先生が私の脈をみて驚かれた。脈がバラバラで,「立っていて大丈夫ですか」と聞かれた。すぐさま心電図をとってみると心電図の波形に規則性が無く,「心房細動」であることがわかった。心室細動は非常に危険だが,心房細動はそれほど危険ではないと言われた。以後,心房細動用の薬(血液の凝固を和らげて血流をよくする薬)をずっと服用していた。
心房細動になると,血圧計で血圧が測れない。血圧計には,ハートマークがでる。透析生活に入る時に,病歴のリストを病院に出すが,そこに心房細動も記入した。心房細動がでると透析に支障が出るのであろう。医師の先生から日赤の病院でアブレーション(カテーテル治療)のための診察を勧められ,しばらく日赤に通って医師に見て頂いた。ホルターを装着して1日の脈の変化を記録する。これを日を変えて数回繰り返したが,しかし異常はでなかった。日赤の医師の先生からは,「昔のデータはありませんか?」と聞かれたが見あたらない。大丈夫そうなので,また細動が出たときに再受診するようにとのことで終了となった。
日赤に通うことをやめた後日,やっと自分のパソコンから心房細動の昔のデータを発見し,立花先生にお見せした。やっぱり心房細動であった。しかし直ったようで,こんなことはめったに無いことだと言われた。また細動が出ることもあるかも知れないが,ほっとした。心房細動の薬は,ハイケア・ユニットでの入院時から止めになっている。
2-13. 血管拡張手術
2018年の9月頃,透析生活に入ってから半年間ほど経過した頃,なかなか透析がうまくできなくなった。穿刺がうまくゆかず,血管から血液が漏れ出して内出血し,穿刺した後が浅黒くあざが残る(1週間ほどで消え去るが)。「血管の狭窄があるらしい」との立花先生の見立てで,多摩総合医療センターで調べて頂いた。
シャントが正常に機能しているかどうかは,シャントの音や超音波診断で判断するようだ。私は毎朝,聴診器をシャントの位置にあてて音を聞いている。ザアザアという音が聞こえれば問題ない。狭窄があると,音が小さくなり,また高い振動数の雑音が混ざるようだ。
シャントや近くの血管が細くなって詰まることがあるということで,2018年10月下旬に多摩総合医療センターで検査を受けた。血管内に造影剤を入れて検査の結果,やはりシャント近くの血管の狭窄が発見された。シャントをつくったのは,2018年の1月だから,約9ヶ月で血管が狭窄したことになる。
そこで1週間後に多摩総合医療センターにて狭窄部分の血管の拡張手術を受けた。正式な手術名は「バスキュラーアクセス造影検査・血管内治療(バルーン)」という。手術はまず,利き腕でない方の腕の肩から指先まで入念に消毒薬を塗布し,次に肩の当たりにある神経叢に麻酔薬を注射して腕全体の局所麻酔をし,数十分後に腕の麻酔が効いた後,腕のどこからか(手術中は見えなかった)から造影剤を体内に入れて手首のシャント付近の血流を調べる。次にカテーテル(柔らかい管)によってバルーン(風船のように膨らむもの)を狭窄部分に挿入し,バルーンを膨らませて狭窄部分の血管を広げる。その後このバルーンは引き出す。手術は2時間半程度で,その日は入院し,翌日,透析して退院となった。手術後は順調に透析ができるようになった。手術結果の確認を2ヶ月後の1月下旬に再検査することになった。今回の狭窄は,シャント近くの枝分かれした血管(静脈)の一部に狭窄が見られたが,その個所が他の血管の裏側にあり,しかも曲がりくねっていて,個所の同定に医師の先生方はご苦労なさったようであった。
手術前の診察時に,医師の先生からは,「左手で重いものを持ちましたか」と尋ねられたが,庭仕事でたいして重くもない「電動ノコギリ」を持ったことくらいしか思い当たることはなく,「ありません」と答えた。
この手術の時,シャントのある左腕を肩の周りから左手の指先まで,殺菌剤を入念に塗布されて,いかに衛生が大切か思い知らされた。私は腹膜透析の衛生管理に自信がなかったので,血液透析にしたのだが,正解だったのではと思った。また,この手術は局所的だが,大きな手術室内で部屋一杯の米国製(ヒューレット・パッカード)の大きな医療機器を使うものであったので驚いた。
2-14. 薬の副作用による発赤
2018年6月中旬頃,左腕シャントの近辺に赤い発疹が出始めた。1週間ほど立つと,発赤が首の周りにも広がり始めた。8月下旬には,さらにお腹や背中,脚など全身に発赤が広がって,かゆみも酷くなった。眼の周りにも発赤ができて,あたかも喧嘩をして殴られた後のアザようになり,レストランでウエイトレスの方が私を見てびっくりしたこともあった。
これまで,汗を大量にかいた後,汗疹(あせも)になることが多くあったので,当初はこの発赤は汗疹ではないかと思った。透析病院では,塗り薬を処方して頂いたが全くよくならない。立花クリニックより,皮膚科の受診を勧められる。
8月最後の日に,皮膚科を受診した。「あせも」「食物アレルギー」ではないもようで原因不明とのこと。塗り薬など処方され,様子を見ることにし,2週間後に再来院となった。
当時,筆者には,降圧利尿薬フロセミド錠,早朝高血圧を押さえまた尿が少しでも出るようにするためのエブランチルカプセル15mg,リンの摂取を抑制するホスレノールCD錠,リン吸着剤を飲むと胃が荒れるので胃炎防止のためランソプラゾールOD錠,かゆみ止めにフェキソフェナジン塩酸塩錠などが処方されていた。
2週間後に皮膚科の再診を受ける前の9月上旬に,立花先生の指示で,薬剤アレルギーの可能性があるということで,エブランチルカプセル15mgの服用を中止した。1,2週間後,薬剤アレルギー確認のため,皮膚科の再診を勧められる。薬剤エブランチル中止後,9月下旬に至っても,若干状況は改善したものの,発赤はまだ良くならない。
9月下旬,皮膚科再診(2回目)。皮膚科の医師からは,「症状の回復が長引きすぎる。他の薬の副作用も調べる必要がある。エブランチルの効果は,服用後7時間程度で消失する。9月上旬にエブランチルを中止してから2週間も経過したのに,まだ回復が長引いていることは,他の薬の副作用も考えられる。」とのことで,次回,服薬中の薬でアレルギー性のあるものを全て調べるために,ランソプラゾールOD錠,プロセミド錠40mgを服薬1回分持参することにし,また血液検査を行うという。これらを「薬剤リンパ球刺激試験」(DLST検査)に出すようだ。ただし,結果が陰性に出ても,アレルギーがでる患者がまれにいるとのこと。この数日後(9/29)に,立花先生の指示で,ランソプラゾールOD錠,プロセミド錠40mgの服用を中止した。
9月末の3回目の再診では,ランソプラゾールOD錠,フロセミドを服薬1回分提出,血液を採取し,薬と血液をDLST検査へ回す。結果は10日間程度を要するとのこと。
10月上旬,4回目の再診。DLST検査の結果が出る。結果は,ランソプラゾールOD錠は陰性,フロセミドは (+)/(-)で疑陽性であった。フロセミドは服用中止を維持すること。ランソプラゾールOD錠は服用継続可。発赤は症状が良くなってきた。もし,また発赤が出たら受診するが,そうでなければ今回で診察は終わり。その後,ブランチルカプセル15mg,フロセミド錠40mgの両者中止後,発赤は次第に改善し,11月上旬には完治した。
こうして,筆者の場合,全身の発赤は,血圧降下剤フロセミドの副作用によるものであったことがわかった。それを中止してから1ヶ月余りでは発赤はきれいに消え去った。5ヶ月間あまり,かゆみとの戦いであった。その後,立花先生が,フロセミド錠に代わる私にとってアレルギー性の無い血圧降下剤を捜して下さって,現在はそれを服用しており,発赤から完全に解放されるに至った。
慢性腎臓病には直接は無関係であると思うが,自分はアレルギーになりやすい体質なので,ある降圧薬に対しても敏感だったのだろうか。
私は,アレルギー体質で,現在,花粉症もある。花粉症には永らく苦しんできた。症状が酷い時は,喘息が出て酸欠気味となり,頭がボーツとして困る。昔,ユネスコの仕事で大学からタイ国に1年間派遣された。帰国後花粉症になった。日本の家が1年間,換気もせずにほったからしで家の内部がカビだらけになっていて,帰国後,カビを吸い込んで発症したらしい。タイ国に一緒に連れて行った子どももアレルギーになってしまった。
以前,在職中のことだが,私の研究室に地質を研究しておられる教授が入ってきたとたんに目がかゆくなったことがあった。野山を歩くことの多い先生の衣服には花粉が沢山付いていたのではないかと思う。病院の待合室やレストランなど,人が集まる場所でも目がかゆくなることがある。これも衣服に付いた花粉が舞い上がるためであるのかもしれない。
今まで多忙で調べてもらう時間も無かったが,2017年1月,やっと自宅の近くに有名なアレルギー科の先生がおられることを発見し,その医院で検査を受けた。血液検査の結果,杉花粉他幅広い物質に対して高いアレルギーをもつことが判明した(IgE:大)。あまりにもIgEの値が高いので,医師が驚いておられた。すでに他界した母親の話によると,自分は子どもの時にも喘息持ちだったそうであるが,小学校へ通うようになってからは消えていた。しかし,体質はかわらなかったようだ。アレルギー検査の後,1年半ほど,喘息対策で吸入薬のお世話になったが,今は落ち着いてきた。今後も慢性腎臓病の薬に対して,アレルギーを注意しなければならない。
若いころはタバコを1日に1~2箱も吸っていて,この状態が20年間位続いていたが,花粉症になって以来,喫煙はすっぱりやめた。喫煙で花粉症の症状がよりひどくなって耐えられれなくなったからである。喫煙は血管を痛め,その結果血圧が上昇するので,喫煙をやめたことは腎臓にもよかったと思う。
2-15. 運動・長距離散歩・ハイキング
透析生活前に永らく続けていたストレッチを主とする「貯筋運動」は,透析生活に入ってからは,少しつらくなり,また,この教室がある月曜日は透析の休みの貴重な日で,買い物,片づけ,他の病院への通院,旅行など,多くのことがらで結構忙しくて通えなくなってしまった。
透析前の数年行ったように,低山ハイキングは体力的に無理になったのでできなくなったので,透析生活に入ってからは,長距離散歩や軽いハイキングにとどめている。2019年の4月中旬に,桜を見に八王子市にある森林総合研究所の多摩森林科学園を訪れたが,高尾山に続く丘陵地域で起伏も多く,また桜の種類も豊富でとても良かった。同年5月頃の気候の良い時節には,新緑が見たくて家内とともに高尾山の6号路のハイキングや,秩父の寺から芝桜で有名な羊山公園までのハイキングに出かけたり,昭和記念公園にでかけたりしたぐらいだ。記念公園は西立川駅でJR中央線を下車し,北へ向かい一番奥の日本庭園を目指す。途中の花や庭園の盆栽をみるのが楽しい。
2-16. ストレスの取り方
週に3日も透析に通うと,これは一種の束縛であるから,その束縛から離れて「自由がほしい」と強く感じる。ストレスの発散が必要だ。筆者の場合,自然が好きなので旅行がよい。
旅行は年に数回,1泊旅行や日帰り旅行をしている。1泊旅行の場合は,日曜日の朝に出発,月曜日の夕刻に帰宅する。これらはバス旅行だ。長距離の車の運転は,疲労が溜まり事故をおこすことが怖いので,やむを得ない場合を除き極力避けている。
1泊旅行では旅行先は関東近在のみとなり,数年するとめぼしいところは大体行ってしまうことになるので,2泊以上の旅行がしたいと強く思うが難しい。旅行先で透析すれば国内外へ1泊以上の旅行もできるらしい。こうした旅行を行う業者は存在するが,透析費用の自己負担分が発生することもあってか費用は高いらしい。こうした旅行では,現在見て頂いている医師の先生に,旅行先の透析所の医師へ紹介状や透析のデータを作って頂くことになるらしい。私はまだ参加したことはない。
なお,旅行にゆかない時でも,できるだけ散歩などをして,体を動かすようにしている。
旅行 熱海梅園 2018年2月
2-17. 血管狭窄の再検査と再拡張手術
2018年10月にシャント近くの血管の狭窄をバル―ンによって拡張する手術を初めて受けた。その後,透析は順調に進んでいて,これでもう以後,拡張手術は必要なくなったと思っていた。その後,2,3ヶ月ごとに多摩総合医療センターの腎臓内科で狭窄の状況を調べる再検査をしていた。超音波でシャントのある左腕を調べる。2019年の2月下旬ではシャントの音に高音が混ざっていると言うことで狭窄の疑いが有り,次回は4月下旬の検査となった。この時も手首に近いところに小さな狭窄があるが,血流は確保されているので,まだ手術は不要とのことであった。
しかし2019年6月頃になって,透析がうまくゆかないことがたびたびあり,血管の狭窄が進んだことが疑われるようになった。6月12日に再検査し,6月19日に再度,狭窄の拡張手術を受けた。1泊の入院で,手術翌日に病院で透析を受け,その後退院した。この手術は,これで2回目である。この手術は1回目がシャント設置(2018年1月)から9ヶ月後の2018年10月,2回目はここから8ヶ月後であった。手術から1週間後に血流が回復しているかどうか確認の診断を受けた。その後も数ケ月ごとに血流のチェックを受ける。2019年12月初旬の検査では,左腕の血管は,細い所でも4mmあり,問題ないとのことで,今回で手術後のフォローは終了になった。しかし,再度,長い期間透析を続けるうちに,また狭窄がおこるかもしれない。その時はまた,改めて血管拡張手術を受けることになる。
実際,2020年2月1日,穿刺がうまくうかなくなり,3回目でやっとなんとかダイヤラーザーに血液を回すことができた。立花先生の診察では,また血管に狭窄ができているとのことで,再度血管拡張手術が必要とのことであった。これは3回目で,2回目(2019年6月)から8ヶ月目である。いずれも1年も待たないうちに狭窄が起こってしまっている。しかし多摩総合医療センターで調べてもらうと,今回は血流が確保されているので,まだ手術は不要とのことでほっとした。
多摩総合医療センターで,狭窄検査の時,西尾先生に偶然廊下でお会いした。その際,先生から「ずいぶん体がやせてすっきりしてきましたね」と言われた。現在はまだ少し太り気味だが,メタボからの脱却に成功したのだなあと実感した。このことは,慢性腎臓病にもよいのだろうと思う。
2-18. 保険証等の変更(後期高齢者)
私の場合,人工透析を多摩総合医療センターのハイケア・ユニットで始めた時は74歳だった。その後,透析病院での透析に移ってからすぐ75歳を過ぎて後期高齢者となり,保険証も「後期高齢者医療被保険者証」に変わった。合わせて,「後期高齢者医療特定疾病療養受療証」「都医療券」も申請して支給された。
2-19. 緊急時の対応
透析のダイアライザーは水を大量に使うらしく,停電や断水などがあると,使えなくなる。2011年3月の東日本大震災の時は,透析が不可能になった病院から他の病院へ患者を移送したという話も報道された。このため,透析病院では,緊急時の対応が考えられている。
クリニックからは,「災害時透析患者カード」も支給された。これは,万が一の場合に透析患者であることを示すカードだ。私は,外出時は,このカードと共に,「身体障害者手帳」「後期高齢者保険者証」「後期高齢者医療特定疾病療養受療証」(マル長),「都医療券」(マル都)の3点セットと,「お薬手帳」「ヘルプカード」(名刺大の赤地のゴム状のカードに白い十字とハートマークがついていて,ゴムヒモもついている)を持参するようにしている。
クリニックからの災害対応の手引きによると,薬も数日分を用意するように書かれている。血圧などの薬のみならず,便秘薬も用意しておくようにとのことである(立花先生のメモによる)。これは,透析患者は,体重をドライウェイトに近づけるように飲水をできるだけ控えており,カリウム吸着剤を服用していて便秘気味の体質になっているためであろう。
災害時は1日か2日おきに透析を受けることができるとは限らないし,受けられたとしても透析時間は短くなるであろう。したがって,腎臓を保護するために,災害時の食事は,透析生活に入る前の透析食になる(1日当たりP:40g,S:4g。C:2000Kcal以上)。カロリー,すなわちエネルギーは十分とらなければならないという。不足すると,体は筋肉を分解し,タンパク質やカリウムを発生する。前者からは毒物の尿素窒素が生まれ,尿毒症のもとになるし,後者は高カリウム血症を引き起こして,心臓に危険だ(参照:とうじんきょう 秋 2019.10.16)。食事管理を良くしておくと,大地震などで停電や断水が発生して透析ができなくなった時でも,1週間位は命がもつらしい。管理が悪ければ数日で命を落とすことになる(立花クリニックのパンフによる)。
他に,災害時には重い落下物などによる圧迫が心配される。筋肉が強く圧迫されると,毒素が発生し,腎臓が障害されるからだ。
2-20. 透析開始から2年経過して
現在(2020年2月),2018年2月15日の入院以後の透析生活に入って以来,約2年経過した。血管の狭窄,かゆみ,薬剤アレルギー(発赤)などを克服して,貧血などもあるがあまり悪くもならず,あまり良くもならず,病状はごく少しずつ悪化しているように思われるものの体調はずいぶんと安定してきたと思う。振り返ってみると,慢性腎臓病患者にとっては,体調維持は飲食と軽い運動のコントロールに尽きるとつくづく思う。
2019年の3月には,新しい春を迎え,草木の芽生えを見て,新しい命に包まれていることを実感し,「自分も無事1年を過ごすことができたのだなあ」と感慨深かった。去年の春は透析生活に入ったばかりで,梅や桜の花見をする心のゆとりも無かったが,今年の春は,梅や桜の花見を幾度もして,生きていることの喜びをかみしめた。
透析生活に入る半月ほど前の2018年2月初旬,腎臓病によって体調は最悪の時期であったが,気分転換のために無理をして,西伊豆の河津桜を見にバス旅行ででかけたことがある。熱海の梅園を経由して河津へ行った。梅園の梅は写真のように満開であったが,河津桜はまだ早くて桜はほとんど咲いていなかった。しかし,出店は多く訪問客も大勢で盛況であった。私の方は,案の定,足がむくんでパンパンになり,歩行がつらく,あまり歩き回れずに残念な思いをした(10日後に入院した)。今年2020年1月末に,2年ぶりに西伊豆を再訪した。熱海梅園を経由して,土肥の近くの恋人岬に立ち寄った。駐車場から岬の先端まで,のぼりや下りの道が続き,最後は階段があるものの急な下りの長い坂がある。ゆっくり歩いて片道15分程度かかるが,私は息を切らせながらも歩くことができた。2年前では,これはとても無理であったろう。岬の先端までの道を歩き通せたことは感慨深いものがあった。透析に耐えて,一生懸命頑張っている私の心臓がいとおしく思った。岬の先端で鐘をついた。自分のついた鐘の澄み切った音が美しい風景のなかに吸い込まれてゆくのは実に気持ちがよい。うれしくなって,心の中で「私は生きているぞ」と叫んだ。
写真 恋人岬からみた風景 2020年2月
透析を開始してほぼ2年経った現在では,透析日はあいかわらずぐったりして何もできないが,透析の間の日では,だるさ,意欲の減少,白内障の進行,集中力の欠如,少し歩いただけで疲れるなどの疲労感なども随分改善し,見違えるように元気になってきた。最近はBMIも23程度になって,メタボからもすっかり脱却したようだ。
また,頭の回転もよくなってきたようにも感じる。こうしてブログを書く元気も戻ってきた。これは,定年後10年以上たち,やっと在職中の頭の疲労も取れてきたせいもあるかも知れないが,透析による毒素の除去の影響が大きいと思う。
さらに,目もよくなった。以前は体重計のメモリを立ったまま見ようとすると,ぼやけて文字が読めなかったが,現在は眼鏡無しで見える。また,以前は,老眼鏡をかけて10分もすると目が疲れてきて,文字がボーツとしてきたが,今はずいぶんと改善して数時間は大丈夫だ。
透析前は頻尿に悩まされていた。夜中に何度もトイレにゆき,寝不足になっていた。透析開始後は,頻尿どころか乏尿になった。
このように,透析日の間の日はほぼ普通の生活を送れるようになった。しかし,透析生活を送っていると,みじめな気分になるときもある。何かに取り組む意欲は依然として低い。また数泊の旅行もいけないこととか,食べ物や飲み物も,いつも塩分と飲水量に注意しなければならないなど,ストレスもたまる。透析時間は1分でも短くしたいと思う。
しかし,透析を回避すれば必ず命を落とすことになるので,透析のおかげで生きながらえたことや,看護師さんたちのやさしさに感謝したい。看護師さんが,「私たちは患者の皆さんとは運命共同体ですよ」とおっしゃって下さったことに感激した。やさしさに癒される。
医療保険制度,医療制度,医療技術,医学研究などの他,医師,看護師,栄養士の皆様など,広範にわたる支援に支えられて生きていることに感謝したい。
2020年1月,市の特定健診を受けた際,医師から「BMIはどのくらいなっていますか」と問われた。透析生活に入ってからはBMIを測っていなかったので,久々に「なつかしい言葉をきいたなあ」と思った。即答はできなかったが,自宅に戻って計算するとBMIの値は23.0程度で,完全にメタボを脱却していることが分かった。これは10年にわたる食事の管理や透析生活前に行ったハイキングなどで体重を落としたことが大きかったと思う。
2-21. 慢性腎臓病治療の未来に期待すること
豚に人間の腎臓をつくらせる,ダイアライザーの機能を向上する(膜),新しい薬(腎臓の細胞を活性化する),IPS細胞から腎臓組織をつくる,3Dプリンターで細胞を積み上げて腎臓をつくるなど,様々な研究が進んでいるらしい(参照:腎臓再生医療 JSTnews 2014.05)。一刻も早く人工透析の時間的束縛から少しでも自由になるように,研究の進展に期待したい。
「慢性腎臓病闘病記(3)-回復へのかすかな期待」に続く。
2020年2月記